今回もまた Wolfe Momma さんの Youtube 動画を参考にしながら、アイルランドの結婚式での伝統的な習わしやしきたりについて見ていきたいと思います。
ハンドファスティング (Handfasting)
文字どおり紐やリボンで新郎と新婦の手を縛る儀式です。英語の慣用句で結婚することを Tie the knot といいますが、これはこのハンドファスティングに由来するそうです。アイルランドでは BC7000 頃からこの儀式が行われていたそうです。ただし、その頃はお試し結婚期間をするときの儀式です。お試し結婚期間という言葉はいま私が作りましたが、カップルが1年間一緒に暮らし、うまくいけば正式に結婚するし、いかなければ別れるというものだったそうです。つまり、婚約の儀式みたいなものだったのですね。
現在でも結婚式で2人が結ばれたシンボルとしてハンドファスティングは非常にポピュラーです。アイルランドだけでなく、イギリスのウイリアム王子とケイトさんの結婚式でもこの儀式は行われました。
マジック・ハンカチーフ (The Magic Handkerchief)
結婚式当日に新婦がリネンやレースのハンカチを肌身離さず持ち歩くという習わし。ブーケや袖に挟んでおくそう。意味としては子供に恵まれますように、というおまじないですね。結婚式の後、そのハンカチは赤ちゃん用の帽子に縫い付け、最初の子供が生まれたとき、またはその洗礼式に着せるそうです。このハンカチは代々受け継がれていくべきもので、Wolfe Momma さんもおばあちゃんからハンカチをもらったそうです。娘さんが結婚するときには渡すつもりだとか。
プラハの子供キリスト (Child of Prague)
18世紀にポピュラーになったなった習わし。子供のイエス・キリスト像は結婚式の日を晴れにしてくれると言い伝えられています。本物の子供のイエス・キリスト像はプラハのある教会に保管されているそうなんですが、このレプリカを置いておくと結婚式当日に雨が降らないと信じられています。どこに置くかについては意見が分かれていて、前日の夜、新婦の家の庭に生えた茂みの中に家の方を向いて置く、家に背を向けて置く、首まで埋める、像全体を埋める、家の入口にお金を敷いて置く (お金はお賽銭みたいな意味)、などの説があります。ボンド俳優のピアース・ブロズナンはアイルランドで結婚式を挙げたのですが、プラハの子供キリストをちゃんと庭に置いておいたので当日晴れたそうです。
ミー・ナ・マラ (Mí na Meala)
直訳すると「蜂蜜の月」です。何百年も前、結婚したカップルは1か月間2人きりで一緒にいて、毎晩ミード (Meade) と呼ばれる蜂蜜酒を飲みました。蜂蜜酒は活力の素になると信じられていて、まあ子供ができることを期待して飲むわけです。2人で籠る1か月の間に身籠ることがあればいいな、というわけです。今で言うハネムーン (新婚旅行) という言葉の由来となった習わしです。
幸運の馬蹄 (A Lucky Horseshoe)
馬蹄 (あの U 字型のやつ) は西洋では幸運のシンボルだと見なされています。アイルランドでは、幸運を呼び込むために新婦が結婚式当日に馬蹄を身に着けておくそうです。このとき U の開口部が上を向くようにしておくこと。上から降ってくる幸運を受け止めるということです。結婚式の後は、新郎が新居のドアのところに馬蹄を釘で打ち付けます。当然、このときもU の開口部が上を向くようにすること。
昔は鉄の馬蹄を新婦の下着に縫い付けていたそうですが、さすがにそれは重いということで、ミニチュアの馬蹄や木製のレプリカをブーケに飾ったり、ガートルに縫い付けたりするそうです。
クラダ・リング (Claddagh Ring)
クラダ・リングは日本でも有名ですね。その起源は17世紀にまで遡ります。どういう風に指輪をはめるかで意味が変わってきます。ハートのとがった部分を外に向けて右手にはめている人はシングルで恋人募集中。自分の方に向けている人は恋人あり。婚約している人はハートのとがった部分を外に向けて左手にはめる。結婚したら向きを逆にします。
ディズニーランドにあるウォルト・ディズニーの銅像もクラダ・リングをはめているそうです。奥さんと一緒にアイルランドに来た時にお揃いのクラダ・リングを購入し、それ以来そのリングを外しませんでした、みたいないい話なんだけど、少なくともその銅像ではクラダ・リングのはめ方が間違っていて、ウォルトさんはシングルで恋人募集中みたいになっているそうです。
靴の中の6ペンス (Sixpence in her Shoe)
昔、イギリスやアイルランドの通貨は12進法だったことがあって、6ペンス硬貨なるものがあったのです。これは1シリングの半分、1ポンドの40分の1になります。
アイルランドの花嫁は左の靴の中にアイルランドの6ペンス硬貨を入れる習慣があります。幸運を呼び込むとされているためです。「Something Olde, Something New, Something Borrowed, Something Blue, A Sixpence in your Shoe」という言い回しがあって、これはネイティブなら少なくとも前半部分は誰でも知っているような有名なものだそうですが、花嫁が結婚式当日に身に着けて置くとラッキーになれる5つのアイテムを示したものです。
通貨が12進数ではなくなったのは1970年代前半のことですから、6ペンス硬貨は現在は流通していないのですが、結婚式で使うためだけに販売しているところもあるそうです。6ペンス硬貨がなければ、10セント硬貨で代用することも。
メイクアップ・ベル (Make Up Bell)
これはちょっと暗い歴史の潜む習わし。結婚式に教会の鐘を鳴らすのは、邪悪なものを追い払うためですが、ピーナル・ロー (カトリック刑罰法) の時代はカトリック教徒にはこれは許されてなかったんですね。アイルランドのピーナル・ローの時代は1695年から1829年までです。このため、その頃に結婚したカトリックのカップルは、ミニチュアの鐘を手渡されていました。カップルはこの鐘を新居に飾っておきます。ここでの「メイクアップ」の意味は「化粧」ではなくて「仲直り」の意味です。夫婦喧嘩のあと、カップルのどちらかがこの小さな鐘を鳴らし、2人で仲良く暮らすことの価値を思い出すということです。
アイリッシュ・ウェディング・コイン (Irish Wedding Coin)
アイルランドの古い習わしだが、現在も非常にポピュラーなもの。結婚式で新郎が新婦に銀のコインを贈るというしきたりです。だいたい結婚式の指輪交換の後に行われるそう。新郎が持つすべての世俗的な財産 (お金とか不動産とか) を妻と共有するという意味を持ちます。コインを贈るときに新郎は「I give you this as a token of all I possess」と宣言するそうです。最近は女性も働いていますので、女性の方からもコインを贈ることも多いそうです。コインには2人のイニシャルや結婚の日付を刻印したり、宝石を埋め込むこともあるそう。一般的に、新婦が母親になって子供が成長すれば、このコインを長男に渡し、長男は結婚式で新婦に渡し、というふうに代々受け継がれていくものだそうです。
リング・ウォーミング (Ring Warming)
これは最近ではあまり見かけないそうですが、Wolfe Momma さんはとても大好きな習わしだそうです。指輪交換の前に、指輪を出席者の間で回していく儀式。指輪が回ってきたら、出席者はカップルに対するお祝いの言葉やお祈りの言葉を心の中で唱えます。指輪が全員の手に渡ってカップルの元に戻ってくる頃には、指輪は物理的にもあったかいですし、出席者の気持ちやエネルギーで精神的にもあったかくなっているというわけです。
以上です。