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北アイルランド・ネイ湖のウナギ漁

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1 カ月ほど前になりますが、アイルランド島最大の湖である北アイルランドのネイ湖のウナギ漁の話がアイリッシュ・タイムズ紙に載っていました。資源枯渇に伴い EU が禁漁にしようと圧力をかけているという話。短い記事なんだけど、イギリスとアイルランドの主権争い、コミュニティに力を与えるカトリック教会、多国籍企業の横暴さなど、歴史的、社会的、経済的要素がウナギ漁の背景として複雑に絡み合って、とてもおもしろかったので、全部訳してみます。

 

===翻訳ここから===
最後のゲール人領主であるヒュー・オニールが 9 年戦争の後に漁業権をはく奪されて以来、湖のウナギ漁で生計を立てる漁民と当局との間で争われてきた何世紀にもわたる戦いに終止符が打たれるかもしれない。ネイ湖でのウナギの捕獲を禁止し、トゥームの村のウナギ漁を廃止させようとする EU の提案である。

 

しかし、EU には強敵が待ち構えている。オリバー・ケネディ神父はこの湖の漁師たちの指導者として、ロンドンの高等法院、ユニオニスト武装集団、イアン・ペイズリー (民主ユニオニスト党党首)、テレンス・オニール (アルスター・ユニオニスト党党首)、環境保護団体などの脅威を撃退し続けてきた。

 

200 万ポンド (3 億円) の年間売上を誇る彼のネイ湖漁業協同組合は、商業的に成り立っている欧州最大の天然ウナギ漁業である。その素晴らしい処理工場では朝獲れたウナギをその日のうちに出荷する。ウナギは燻製にされ、次の日の朝にはオランダの店頭に並んでいる。2011 年には、この組合のウナギは、シャンパンやパルマハムと同じように、EU によって保護指定原産地表示が認められた。

 

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ケネディー神父がメイヌース大学の神学校で学んでいたとき、自分がウナギ王になろうとは思ってもいなかった。しかし、1961 年にネイ湖畔のトゥームブリッジに赴任した彼は、コミュニティーが大きな問題に巻きこまれているのを知る。漁業権を購入したと主張するイギリス/オランダ系の企業が、この企業以外には獲れたウナギを売らないように、管財人を使って漁師たちに圧力を掛けていたのだ。買い取り価格は安く、量も限定される。

 

必死になった漁民と管財人の間では暴力が発生することもあった。告訴と法廷での争いがこれに続いた。しかし、法的には、所有権はシャフツベリー家が持っており、彼らは外国の企業にこの権利をリースしたのだ。1661 年にチャールズ二世がドネガル卿に漁業権を与えて以来、この権利は貴族の間で引き継がれてきた。

 

「私は田舎の司祭に過ぎないが」と 2007 年に神父は BBC のインタビューに答えている。「大きな社会的問題が発生していて、神父としてそれを解決しなければならないと考えたのです」。ウナギ漁については何も知らなかったが、またたく間に知識を身につけ、教区民を勇気づけて資金を集め、その会社の株を取得し、神父自身が取締役会に参加できるようになった。

 

漁業組合は 7 年を費やして漁業権を完全に手中に収めることに成功する。2000 年には売上は年 500 万ポンドに達したが、ネイ湖に戻ってくるウナギの数は減少していた。8 年後には売上は半分に落ち込み、以降も回復の兆しは見えない。漁師たちは売上の半分を受け取り、残りは組合が、入漁許可証の発行、漁獲割り当ての管理、ウナギの毎朝の回収と処理場までの輸送を行うために使う。この処理場で選別、梱包されたウナギはオランダ、ドイツ、そしてイギリスのビリングスゲート魚市場に送られる。

 

1980 年代には 500 家族がネイ湖とバン川でウナギ漁を営んでいたが、資源状態の悪化により現在では 100 家族にまで減少した。ケネディー神父がこの湖で保持していた 8000 万匹の稚魚がなければ、この数はもっと少なくなっていただろう。

 

非常に貴重になった稚魚は、近年、米国ではキロあたり 3000 ドルで取引されていた。しかし、先月、イギリスのセバーン川に何億もの単位で稚魚が突然戻ってきたため、価格は一時的にキロあたり 30 ドルにまで下落した。これは、過去 30 年間で最大の豊漁だった。

 

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漁協の成功は称賛に値するが、アイルランド共和国のウナギ漁師には羨望の目でも見られている。共和国では 2009 年に EU のイニシアティブによりウナギ漁が非合法化されたからだ。これは、大西洋で推定 95%、北海で 99% とという資源の急激な減少に対応するためのものだった。減少の理由ははっきりとはわからない。地球温暖化のためメキシコ湾流の流れが変わったこと、寄生虫、化学物質の汚染などが一因ではないかと言われている。

 

資源が回復すれば禁漁が解除されるのではないかという希望もあるが、ウナギ漁を禁止したのはノルウェーアイルランドだけなので、このシナリオはほぼありえない。ウナギは同じ餌場には戻らないので、ウナギ漁をここで禁じても、どこかほかの場所の漁獲高が上がるだけなのだ。

 

一方、ESB (アイルランドの電力会社) は、毎年大量のウナギを水力発電用のタービンに巻きこんでいる。アードナクルシャにあるタービンは、サルガッソー海で孵化してシャノン川に戻ってきたウナギの 20% から30% を殺している。一部のウナギは古い水路を遡ることで難を逃れるほか、キラローに仕掛けた網でウナギを捕まえアードナクルシャ付近に輸送して放すことで、ウナギの約 40% を救っていると ESB は主張している。

 

ケネディー神父は、仕事もする神父さんというフランスのムーブメントにインスパイアされたのだと言う。これは、教区民の気持ちを理解するため、神父もコミュニティーの中で普通の職に就くという運動だ。82 歳になった彼は、漁師と管財人の争いを仲裁するピースメーカー、アイルランドの主権者の権利の解放者、そしてビジネスの指導者と、最も波乱に富んだ聖職者の経歴のひとつを満足感をもって振り返ることができる。

 

彼の漁協は過去 25 年間で漁師たちに 7000 万ポンドの収入を与えてきた。しかし、EU は、1604 年にヒュー・オニールを倒し、地元民の漁業権を取りあげたジェームズ一世と同じくらい、やっかいな敵となるかもしれない。
===翻訳おわり===

 

別のところで読んだ日本の漁業専門家の話によると、ウナギはもうほんとにやばくて、この専門家は資源回復の見込みはないと言い切っていた。ウナギは好きなんですけど、こうなると食べるのを考えちゃいますね。

 

冒頭の写真はケネディー神父とミシェル・オニール北アイルランド農業相

 

アイリッシュタイムズ紙の元記事 (Wriggling out of EU eel fishing ban)

www.irishtimes.com

 
 
北アイルランドのウナギ漁について2009年9月に書いた記事:
 
 
2019年8月追記:
2019年6月に実際にトゥームの村に行ってきました。