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郵便ポストのイギリス君主の紋章は消すべきではない

 

 

 

アイルランドの郵便ポストにはイギリスの君主の紋章が刻まれています。これは、イギリスの支配下にあったころの郵便ポストを緑に塗り替えて今でも使っているからです。

 

具体的には、ヴィクトリア女王 (在位1837 - 1901)、エドワード7世 (1901 - 1910)、ジョージ5世 (1910 - 1936) のものがあります。1922年にアイルランド自由国ができたときに緑に塗り替えたのですが、紋章はそのままになったわけです。

 

それで、ときどきアイルランドはもうイギリスから独立したのだから、イギリス君主の紋章を削り取ってしまおう、という意見を言う人が出てきます。

 

今回は、リムリックのジョン・コステロさんという市議会議員 (シン・フェイン所属) がそう言っているようです。それで、アイリッシュ・インデペンデント紙にメアリ・ケニーさんというコラムニストが反論を寄稿していました。

 

www.independent.ie

 

1949年にアイルランドが正式に共和制を敷いたときにも、紋章を削り取ろうという動きがあったようです。大統領選挙にも出馬したことがあるデイビッド・ノリスという名物上院議員は、親戚の人がその動きを知って動揺していたという話をしています。彼の家系はプロテスタントです。アイルランドが独立国家となったことは問題なく受け入れていましたが、彼らにとって歴史の本質的要素の1つが消し去られようとしていることを苦痛に感じたというわけです。

 

このときは、妥協案として、一部のポストの紋章のみが取り除かれたそうです。

 

コステロ議員の主張はシンプルです。「私たちはイギリスの支配下にあるのではない。それなのになぜ大通りにあるポストに英国君主の紋章がついているのか? グラインダーで削り取り、アン・ポスト (アイルランド郵便事業者) のロゴをつければいい。アイルランドは独立国だ」

 

メアリ・ケニーさんはこれに反対です。アイルランド共和国に住む若いプロテスタントは、ノリス家の70年前の反応を繰り返すことはしないだろうと彼女はいいます。南のユニオニストの伝統は姿を消してしまった。彼らの一部はコステロの意見に同意すらするかもしれない、というのです。

 

コステロ議員に反対する労働党のコナー・シーハン議員の意見を記事の中で彼女は紹介します。コステロの提案は、歴史の真実を破壊し、保護された建造物にグラインダーを当てるようなものだというのです。

 

リムリックの歴史的な建造物に、ジョン王の城 (キング・ジョンズ・キャッスル) というのがあります。ジョン王はいうまでもなくイギリスの王様です。それをハンマーで壊すようなものだというのです。

 

アイルランドにはそういったものがたくさんあります。アイルランドの国会であるレンスター・ハウスは、1747年にキルデア伯爵によって建てられてたものです。現在は首相官邸として使われているメリオン・ストリートの建物は、エドワード7世が礎石を置いたものです。ロイヤル・ダブリン・ソサイアティでは、シン・フェインも党大会を開いています。

 

郵便ポストの紋章以外にも、ロイヤル (王立) という語を含む団体の名前を変えるべきだという人もいます。たとえば王立アイルランド学術協会 (ロイヤル・アイリッシュ・アカデミー) などです。また、英国人の名前を冠した通りの名前をアイルランド人のものに変えようと主張する人もいます。たとえば、アイルスベリー・ロードをショーン・マクダーモット・アベニューに変えるなどです。しかし。「王立」のつく団体に属する人もその名前に伝統や誇りを感じているかもしれませんし、アイルスベリー・ロードの住民も同様です。

 

1960年代には多くのジョージ朝建築が取り壊されたそうですが、この背景には、やはりこのような建築物には帝国主義の名残であるという感情があったのはまちがいありません。しかし、このときも共産党の設立者だったミック・オリオーダンからマイケル・スィートマン神父までさまざまな人が経立場を超えて反対し、多くの建築物が救われたそうです。

 

新しい体制ができると、古い体制に関係するものをすべて消し去ろうとする動きが起きることはよくあります。ヘンリー8世修道院を破壊し、フランス革命は王政にかかわるすべてを消し去ろうとしました。しかし、時間が経てば、より思慮深いアプローチが生まれ、過去は国の多様なストーリーの一部に組み込まれます。

 

また、歴史の事実を消すことはできないという問題もあります。郵便制度はイギリスでは1840年代に始まり、アンソニー・トロロープという人によってアイルランドでも制度が整えられました。たった10年だったエドワード7世の治世において、アイルランドにはほかのどの時代よりも多くのポストが導入されました (エドワード7世の紋章のあるポストは今でもたくさんあります)。

 

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イギリス君主の紋章はそのストーリーを語ります。その上に緑が塗られていることは、そうした郵便の伝統をアイルランドが吸収して取り込んだことを示します。

 

過去のさまざまな要素を統合することは、自信と成熟のあらわれです。過去を消そうとするのは不安と過剰な繊細さの表れです。また、現在のアイルランドアイデンティティへの自信のなさでもあります。

 

さらに、北アイルランドを含めた「Shared Ireland」を目指すなら、すべての伝統をあわせて受け入れることが、このプロジェクトの必須の要素となるでしょう。

 

建設的な代替手段もある、アン・ポストのロゴを入れた郵便ポストをもっと作るのだ。私たちはそれを必要としている、と、メアリ・ケニーさんはおっしゃっています。

 

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