たらのコーヒー屋さん - 2 店舗目

たらのコーヒー屋さんです。

ヘッド・ショップ

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この間買った、ダブリンのドラッグ・ギャングの抗争に関する犯罪実録物を読んでるんだけど、とても面白いです。自分の知ってる地名がどんどん出てくるし (あー、ここソフトボールのアウェーの試合で行ったなー、とか)、新聞記事で断片的に読んでたことが一つの叙事詩 (ちょっと大げさ?) にまとまるし、あと、たぶん犯罪実録物の読者層に合わせてるのか英語が簡単。

 

ギャングはクラムリン (Crumlin) っていう地区の出身なんだけど、ちょうど先週、友だちの家にランチをお呼ばれに行って、彼女の家がクラムリンだった。タクシーで行ったんだけど、クラムリン地区に入ったあたりで、「最近、ギャングの本、読んでるんですよねー」って言ったら、「あー、この辺ねー。確か、ボスの一人の父親はこの角を曲がったあたりに住んでるんじゃないかなー」って。ダブリン、狭い街です。

 

こういう書き方すると、クラムリンってどんなスラム街なんだ、って思うかもしれませんけど、普通の住宅街です。ランチにはご近所の老夫婦も来てたんですけど、普通に品のいい方たちでした。悪い評判のたってる街でも 99% はいい人です。

 

ここ一週間ぐらいでダブリンのヘッド・ショップ (Head Shop) が 2 軒続けて放火されました。ヘッド・ショップっていうのは合法的なドラッグを売る店のことです。いっぱいあります。

 

1 軒はケイペル・ストリート (Capel St.) のニルヴァーナっていう店。もう 1 軒はノース・フレデリック・ストリート (North Frederic St.) のハッピー・ヒッピーっていう店。名前がもう、ね。ニルヴァーナの方は隣のアダルトショップや駐車場にも延焼して大被害みたいです。

 

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こういう店に眉をひそめる人たちももちろんいて、特に田舎とかだと店の前でプラカード掲げて抗議してたりします (アイルランドは普通の人が割と普通にこういう運動に参加します)。

 

ちょっと前には、裁判所の偉い判事さんの所有するビルにヘッド・ショップが店を開いたっていうんで問題になってました。判事さんによると、「オルタネイティブ・ヒーリングの商品」を販売するっていうから貸したのに、っていうことで、すぐに出て行ってもらうっていうことだったか、すでに出てもらっただったか。

 

今回の放火も、もしかしたらこういう抗議活動が度を越して放火につながったんじゃないかという見方もありますが、まあたぶん、ドラッグ・ギャングが競争相手をつぶすために火を付けたんだろうな、というのがもっぱらの噂。

 

最近の不況で違法ドラッグ買ってた人たちが、3 分の 1 ぐらいの値段の合法ドラッグに流れているらしい。

 

一昨日のアイリッシュ・タイムズ紙の記事では、テンプルバーでダブリン・ヘッド・ショップっていう店を経営するラッセルさんっていう人が写真付きで取材を受けている。

 

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ラッセルさんによれば、購入するには 18 歳以上を証明する ID が必要なので、お客さんはみんな「同意した成人 (Consenting Adult)」である。使用方法についての適切なアドバイスをしている。また、ブラック・マーケットや違法ドラッグに対する安全な代替オプションを提供している。ということから、ヘッド・ショップは有益なサービスを提供しているんだ、と主張されています。

 

お客さんのインタビューもあって、「違法ドラッグだと何が入ってるかわからないけど、ここで売ってるものは少なくとも何を摂取してるかはわかる」(21歳、女性)「この店を利用するようになってから大麻やドラッグに手を出すのをやめた」(42歳、男性)「愛用する合法ドラッグが禁止されたら、またストリートに戻ることになるだろう (道で売ってる違法ドラッグに手を出すだろう)」(70歳、男性)などと語っておられます。

 

もちろん反対意見も掲載されています。地元のヘッドショップへの抗議運動に参加する 3 児のお母さんであるところのジャッキーさんは、「すべての商品には「食用には適さない」と表示されている。天然成分が含有物てして記載されていても、化学薬品が実際には含まれていることが検査でわかったものもある」と言っています。

 

ロンドンの国立依存症センターのウィンストック博士によれば、「成分が明記されていたにしても、こういう成分を人間が摂取した歴史はないわけで、発がん性や催奇性などの悪影響がないとは誰も証明できない」のだそうです。

 

ドラッグの問題って道徳がかかわってくるからヒステリックな議論になりがちなんだけど、道徳観を押し付けずに両者の意見を併記して読者の判断の材料を提供するっていう、こういう記者の姿勢っていうのは好感がもてます。特に、ヘッドショップの人の話が聞けたのはとてもよかった。そういう場所に行かない人にとってはまったく謎で、ちょっと入るのも怖いような印象でしたから。

 

日本だと割と興味本位の記事になっちゃうか、一面的な道徳感を押し付けてヒステリックに叩いちゃうかになっちゃうと思うですよね。

 

数年前だったか、日本に帰ったときにワイドショーを見てたらドラッグの話になったのです。元警視庁の麻薬取締をやってた偉い人が出てきて、いかに麻薬が悪いものかを説く (いや、悪いんですけど)。ひな壇にタレントが 10 人くらいいて、調子を合わせて「いやー、麻薬ってほんとうに悪いっすよねー」みたいになるわけです。なんかもう洗脳装置ですよね。

 

しかし、まじめに麻薬の問題をやりたいんであれば、カジュアル・ドラッグの合法化を主張している人を呼んできて、両者の意見を聞いたほうが視聴者にとっては有益だと思うんですよね。実際、軽いドラッグは合法にしている国も多くあって、そういう国は理由があってそうしているわけですから。

 

あの、私は別にカジュアル・ドラッグを日本で合法化したいわけではないです。オランダやイギリスとは事情が違いますから、私は日本での合法化には積極的に反対です。私が言いたいのは、一方の専門家の意見を垂れ流しにして、それに応援団まで付けたりして、それに対する反対意見は紹介もしない。大麻とか軽いドラッグに関する情報は明らかにまちがってるものもあったし。

 

もう 10 年前だったか、アイルランドの国民的なトークショー (Late Late Show) に神父さんが出てきて、カジュアル・ドラッグの合法化を説いたのが、私にとってはもの凄く衝撃的でした。

 

なんて、ここまで書いて今日の新聞を読んでたら、ハッピーヒッピーの方は、ガンマンが押し入って、店員と客の計 3 人を店の奥に押し込めて、店にガソリンを撒いて火をつけて逃げたそうだ。

 

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被害者はすぐに逃げ出して無事だったそうだけど。こわっ。警察は殺人未遂に容疑を切り替えて捜査している。それで、たまたまなんだかどうか、店員さんにはなんの犯罪歴もないんだけど、ドラッグギャングの親類と結婚してるそうだ。The plot thickens.