前編からの続きです。
7. ブロワーズ・ドーター by ダミアン・ライス (2001年)
The Blower’s Daughter by Damian Rice
この曲はかなり後になって Youtube で知った曲。『クローサー』(2004年)という映画の主題歌にもなりました。震えるような歌声、シンプルだが謎めいた歌詞、感情を抑えながらも緊張感をはらんだ曲調。とてもミステリアスな曲です。ライスはインタビュー嫌いでほとんどプロモーションをしない人なので、解釈はリスナーに委ねられています。インターネット上にはいろいろな説があふれているのですが、そのほとんどに「コンサートでライス自身が語った話」という前置きが付いています。まず、タイトルの『ブロワーズ・ドーター』のブロワーズとは何なのか? クラリネットのことだとか(つまり、ブロワーズ・ドーターはライスのクラリネットの先生の娘である)、ガラス吹き職人のことだとか言ってる人もいますが、最も好奇心を掻き立てられるのは、コックニーの俗語における Blower の意味、すなわち「電話」なのだという説です。これは次のようなストーリーです。
ライスはプロのミュージシャンになる前に、コールセンターに勤めていて、住宅ローンや保険の電話勧誘販売をやっていた。頼まれてもいないのに電話を掛ける、いわゆるコールド・コールの仕事だったので、電話の相手に拒絶されることの連続だった。ところが、ある夏の日、電話に出た女性と話が弾み、1時間近く話し込んでしまった。金融商品についてではなく、自分たちの夢や希望について語り合い、ラポールが生まれた。少なくともライスはそう思った。彼女に夢中になったライスは、営業のフォローアップという名目で毎日彼女に電話をかけるようになる。会話はより親密なものになっていった。しかし、ある日、彼女は突然電話に応えなくなる。どうしても我慢ができなくなったライスは、電話番号を頼りに住所を突き止め、休みを取って彼女の家まで行くことにした。植え込みの陰に隠れて彼女が姿を現すのを待っていると、学校の制服に身を包んだ高校生の少女が出てきて「じゃあ、行ってくるね、ママ」と言った。その声は間違いなく電話の彼女の声だった。つまり、彼女は大人のふりをして暇つぶしにライスをからかっていたのだ。電話に出なくなったのは、夏休みが終わって学校が始まったからだった。という話。しかし、こちらのサイトには、コールセンターで働いたことはないし、この話はフィクションだとライス自身が明言したと書いてある。しかし、ソースはついていない。私が以前読んだサイトには、「未成年者に恋心を抱くストーリーなので、この話をオープンにするかどうかは迷った」みたいなことをライスが言ったというまことしやかな話が掲載されていたが。。。
8. シャイニング・ライト by アッシュ (2001年)
Shining Light by Ash
この曲もリリース当時は知らなくて、2010年くらいかな、アイルランドのロック・ポップス名曲集みたいな2枚組のCDを買って、その中に入っていた曲です。ジャングリーなギターのリフがかっこいいです。恋人を敬愛する気持ちをストレートに歌う歌詞とポジティブな曲調がすごくマッチしていていいでのです。アニー・レノックスもカバーしているのですが、私はアッシュの方が好きかな。2000年頃は仕事ばっかりしていて、音楽とかを追いかける時間はほとんどありませんでした。
9. トゥ・ザ・ブライト・アンド・シャイニング・サン by ザ・ウォールズ (2002年)
To the Bright and Shining Sun by The Walls
ザ・スタニングというアイルランドではけっこう有名だったバンドがあったんですけど、そのバンドが解散したあと、そのバンドの中心だったウォール兄弟が結成したバンド。『トゥ・ザ・ブライト・アンド・シャイニング・サン』は確か AIB の CM にも使われていたはず。軽快なギターのリフとメランコリックなメロディーが心地いいです。ビデオに出演しているサラ・グリーンは、今ではアイルランドの映画などで主演を張るくらいの女優さんになっています。ウォール兄弟は、昔働いていたソフトウェア会社の同僚のいとこで、その同僚の結婚式に招待してもらって行ったところ、ウォール兄弟もいてちょっとお話しました。ザ・ウォールズのライブは見たことないんだけど、93年にサールズ (Thurles) で開かれたフェイラ (Féile) というサマー・イベントでザ・スタニングは見ました。ザ・スタニングとしてはそれが最後のステージになったと思います。
10. テイク・ミー・トゥ・チャーチ by ホージア (2013年)
Take Me to Church by Hozier
さすがにもうアイルランドの新しいバンドやミュージシャンは追えてないというか、熱心に追いかける気力もないのですが、2010年代のバンドとしてスクリプトやコロナズに触れようとしたら、彼らは00年代のデビューだということがわかって、いやいや時間流れるの速すぎでしょ、という気持ちになりました。2010年代は楽曲でいえばやはりこの曲。声質、歌詞、メロディー、プロモーション・ビデオまで。何もかもがパワフルでソウルフル。しかし、信仰を恋人に喩えるという仕掛けを歌詞に施すことで、社会性を帯びた強烈なメッセージ・ソングなのに。暑苦しさも説教臭さもなく胸に迫ります。二十歳そこそこでこんな曲を書けるんだから、たいしたもんです。
次点:
ノー・フロンティア by メアリー・ブラック (1989年)
No Frontier by Mary Black
メアリー・ブラックは女性シンガー・ソング・ライター。彼女は90年頃には日本でもかなり知名度があったはず。『ウーマンズ・ハート』っていうアイルランドの女性ボーカリストのコンピレーション・アルバムが話題になっていたと思います。私も好きで、アイルランドに来た年に (93年) ポイント・シアター (今の3Arena がある場所にあったコンサート会場) に彼女のコンサートを見に行きました。もう詳細は忘れてしまったんだけど、とてもよかったという記憶は残っています。
オール・ゾーズ・フレンドリー・ピープル by フュネラル・スーツ (2012年)
All Those Friendly People by Funeral Suits
フュネラル・スーツはダブリンのオルタナ・ロック・バンド。Youtube でたまたま出会って視聴しました。その後、すぐに解散 (2016年) したので、私も詳しいことはよく知りません。どの曲も何かがずれていて、私を収まりの悪い気持ちにさせるのですが、それだからこそ怖いものみたさでもう1回、もう1回と聴いてしまうのです。プロモーション・ビデオも何かを暗示しているのかわかりませんが、思わせぶりな映像で引き込まれてしまいます。ここで選んだ『オール・ゾーズ・フレンドリー・ピープル』では、山高帽を被り、鼻の高い面を被った男が、ガチョウ足行進しながら、縄で女を引きずっていくというもの。そんなに売れていたバンドだとは思わないんだけど、このビデオの視聴回数は2千万回を超えています。
以上、私の心のベストテン (プラス次点2つ) でした。