昨日(10/11)の夜、グラスゴーでサッカー女子代表のアイルランド対スコットランド戦がありまして、アイルランドが1-0で勝利。これにより、来年オーストラリアとニュージーランドで開かれる女子W杯にアイルランドが出場することが決まりました。アイルランドは初出場。
アイルランドは数日前にドネゴール県で起きた爆発事故の犠牲者をしのんで黒いアームバンドを巻いてプレイ。試合前には1分間の黙とうがささげられました。決勝点を決めたのはドネゴール出身のアンバー・バレット選手。ゴール・セレブレーションではひざまづいてアームバンドに手を置き、犠牲者に敬意を表しました。
ところが、試合後にある事件が発生し、優勝祝賀ムードもふっとんでしまいました。
アイルランド・チームはロッカールームに戻って本選出場を祝い、みんなで歌を歌っていました。その歌というのがウルフトーンズというバンドの「セルティック・シンフォニー」という曲です。これはいわゆるレベル・ソング (抵抗の歌) で、その中に「Up The RA」(アップ・ザ・ラー)と連呼する部分があるのです。
RA というのは IRA のことで、IRA がんばれ、なんていう意味ですから、このフレーズは禁句となっています。IRA に殺された人もいるわけですから、和解が進む中でこのフレーズを使わないようにしようというのは社会的なコンセンサスです。
しかし、チームは喜びを爆発させる中で判断を誤り、この曲を歌ってしまったと。それどころかこれを録画してSNSにアップロードした選手がいたのですね。たちまち多くの人がこれをシェアすることになりました (現在は削除済み)。
これについては、アイルランドサッカー協会、ヴェラ・ポー監督、選手たちがただちに謝罪しました。ポー監督はオランダ人でその歌がどういう意味を持つかは知らず、そもそもその場にいなかったのでどうしようもなかったのですが、「あってはならないこと」とし、全責任は自分にあると言っています。
イギリスのスカイ・スポーツでは、ロブ・ウォットンというキャスターがアイルランドのクロイ・ムスタキ選手にインタビューしている際に「アイルランド・チームは教育が必要ではないか」と尋ねました。これについてはアイルランドで反発が起きています。
イギリス人がアイルランド人にイギリスとアイルランドの歴史について教育が必要ではないか、などというのはばかげている。イギリスではイギリスとアイルランドの歴史なんか教えていないくせに、というわけです。
「アップ・ザ・ラー」は社会的にはダメなフレーズだというのはみんなわかっているはずですが、ただアイルランド人の多くは心の底から忌み嫌っているわけではないというのが私の印象です。
たとえば、こんな写真を撮ったりしています。「アップ・ザ・ラーメン」ですね。これはたぶん日本で開かれたラグビー・ワールドカップのときかな。
30年前にアイルランド代表にポール・マグラーという選手がいたのですが、その選手の応援も「アップ・ザ・ラー」の歌詞を「ポール・マグラー」に代えて同じメロディーで歌っていました。最後の「ラー」で韻を踏んでますからね。
2022/10/16追記
ウルフトーンズの「セルティック・シンフォニー」に出てくる「ウッ、アッ、アップ・ザ・ラー」のフレーズは実はネタ元があって、それはギャップ・バンド(米国のファンク・バンド)の1979年のヒット曲「Oops Upside your head」だそうだ。