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クランベリーズの『ゾンビ』がラグビー・アイルランド代表のアンセムになった

いま行われているラグビーW杯でアイルランドが強敵の南アフリカを13対8で下しました。試合終了後、スタジアムのアイルランド・サポーターたちはザ・クランベリーズの『ゾンビ』を大合唱したんですね。私はちょっとびっくりしました。『ゾンビ』がスポーツの大会で歌われているのを知らなかったので。

 

 

 

www.irishtimes.com

 

こちらのアイリッシュタイムズの記事によりますと、スポーツ観戦における『ゾンビ』の人気は、ハーリングのリムリック代表の躍進とともに高まってきたらしいです。クランベリーズのリード・シンガーで、リムリック出身のドロレス・オリオーダンが亡くなったのは2018年。リムリックのハーリング・チームもその頃から強くなりました。ハーリングというのはゲーリック・フットボールなどと共にゲーリック・ゲームズといわれ、アイルランドでは非常に人気が高いです。どういうスポーツかというと、フィールド・ホッケーのヤバいやつだと考えてください。

 

アイルランドの大きなスポーツの試合では、試合開始前にPAでいろんな曲を流すんですが (日本もそうだっけ?)、リムリックの試合会場ではオリオーダンの死後、クランベリーズのいろんなヒット曲が流されたんですね。そして、『ドリームス』や『リンガー』などを抑えてリムリック・サポーターの心を最もつかんだのが『ゾンビ』だったわけです。

 

ハーリングの次に『ゾンビ』に感染したのはマンスターのラグビー・チームです。マンスターはホーム・グラウンドがリムリックにありますからね。リムリックはアイルランドでは珍しくラグビーの街クラブ (私立学校のクラブ活動ではなく) が盛んな町でもあります。

 

アイルランドラグビー代表の6ネイションズでは 『ゾンビ』はあまり歌われなかったようです。上記の記事にいわせれば、6ネイションズは「barter account」的な客が多いからということになります。「barter account」はアイルランドでいま流行りの表現で、簡単に言えばスポンサーの招待できた客 (あまりラグビーに熱心でない客) ぐらいの意味です。『レイト・レイト・ショー』司会者のライアン・タブリディに裏で多めにギャラを払っていたことがバレた RTE が (RTEは出演者に払うギャラを公表しています)、そのお金は「barter account」で支払われたと言い訳したことにちなみます。

 

ところが、W杯になりますとより広い層の関心を集めるわけです。先週のトンガ戦の勝利の後にサポーターは『ゾンビ』を大声で歌い、ラグビーアイルランド代表のアンセムとしてのこの曲の地位が固められたようです。

 

『ゾンビ』は、1枚目のアルバムで大成功を収めたクランベリーズが1994年にリリースした曲で、2枚目のアルバム『ノー・ニード・トゥ・アーギュー』からのシングルカット。ちょうど私がアイルランドに来た時期とかぶっているのでよく覚えています。クランベリーズが初めて政治的なテーマに取り組んだ曲としても話題になりました。

 

1993年、イギリスのウォリントンという町でIRAが爆弾テロを行います。その結果、3歳と12歳の2人の子供が命を落とします。そのうちの1人の母親のインタビューを聞いて、この事件に対する強い怒りを覚えたオリオーダンが書き上げたのが『ゾンビ』です。IRAは「アイルランドのために」などと言いながらこうしたテロ行為を行っていたわけですが、テロ行為の正当化のために私の国の名前を使うなということです。「It’s not me, It’s not my family」という歌詞にそれが表れています。

 

この曲がラグビー・アンセムとして使用されることについては、一部のナショナリストの皆さんが不満を表明しています。アイルランドの分断を支持するパーテイショニスト (分断支持者) の曲だというのです。しかし、ウォリントンの爆破事件が起きた当時、北アイルランドですらシンフェイン/IRAへの支持率は、穏健派のSDLP (社会民主労働党) よりもずっと低かったんですよね。アンチIRAの曲だからといってそれがアイルランドの分断を認める曲だということにはならないし、そしてもちろん、IRAの暴力を非難することは、イギリスの警察権力の暴力を肯定することにはなりません。

 

『ゾンビー』のMVはYouTubeで14億回再生されており、これはアイルランドのバンドが発表した曲としては最高の再生回数です。昨年には、2FMのリスナーによってアイルランド最高のヒット曲に選ばれています。

 

『ゾンビー』の前にスポーツの試合でよく歌われていた歌は『ザ・フィールド・オブ・アテンライ』。その前は『マリー・モローン』だったそうです。前者は哀愁が漂い、後者は牧歌的な雰囲気の曲だったわけですが、『ゾンビ』のダークでグランジーな曲調は闘争心を奮い立たせるという意味ではスポーツの試合の応援歌としてよりフィットしているのかもしれません。

 

 

 


アイルランドラグビーの公式アンセムである『アイルランド・コール』についての記事はこちら。

tarafuku10.hatenablog.com

 

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