たらのコーヒー屋さん - 2 店舗目

たらのコーヒー屋さんです。

アイルランド語

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アイルランド語はアイルランドの第一公用語です。まあほとんどの人はいろんな事情で日常的には英語を使うようになっているわけですが。アイルランド語のネイティブ・スピーカーと言えるのは 4 万人から 8 万人の間、家庭やコミュニティーでアイルランド語を日常的に使っているのはアイルランドの人口の約 3% (14 万人ぐらい) だそうです。

 

しかし、アイルランド語 (ゲール語ともいいます) の単語はダブリンに住んでいても日常的に目にします。公的な機関の名前はアイルランド語になっていることが多く、たとえば警察は Police ではなく、Garda と言います。国からのお知らせみたいなものがポストに入っていることがありますが、こういうのもだいたい英語とアイルランド語の併記になっています。

 

それで、上の写真なんですが、看板にはアイルランド語しか書いてありませんが、うちの近所の郵便局です (アイルランドの郵便局は緑です)。ダブリンの町の中心に近いところにあるんですが、看板の書体までゲール後独特のものを使っているせいで、ここだけ切り取るとなんだかアイルランド西部のゲール語保護地域に迷い込んだような気になります。普通は英語併記するなりしてもうちょっと non-Irish friendly なんですが、ここまで郵便局と判別しにくい郵便局も少ないと思います。前を通って中を覗きこめばわかりますが、川向こうにあるせいで、実は私もしばらくここが郵便局だとは気付きませんでした。

 

もう 10 年以上前になりますが、エンヤのお父さんが経営するパブに行ったことがあります。アイルランドの西の端のドネゴールというところです。B&B に泊って、そこのファミリーのティーンエイジャーの 3 人姉妹と一緒に居間でテレビを見たんです。スパイスガールズが全盛の頃で、テレビには彼女たちが映っていました。3 人姉妹は英語ではない言葉でスパイスガールズについて話していました (名前は聞きとれるので何の話をしているかはわかります)。念のために確認したら、ゲール語だよーと。ゲール語で語られるスパイスガールズというのが新鮮だったわけですが、あれが私が生きたゲール語に触れた最初で最後の機会だったような気がします。余談ですが、いまは観光局が B&B の標準化に力を入れているので、ファミリーの子供たちと一緒にテレビを見られるような B&B は少なくなったと思います。

 

アイルランドにはゲールタハトと呼ばれるゲール語保護地域があります。おもに西部に点在しているのですが、ここでは交通標識などを含めて基本的にすべてがアイルランド語となります。銀行のキャンペーンポスターもダブリンでは英語なのに、この地域の支店では同じ絵柄で言葉だけアイルランド語になっていたりして新鮮です。

 

ゲール語と日本人のからむ有名な笑い話があります。アイルランドに初めて日本の企業が進出してきたとき (本当の話だとしたらこれは旭化成です)、アイルランド語がアイルランドの公用語だと知った日本人駐在員は日本で一生懸命アイルランド語を勉強してきたそうです。それで実際アイルランドにやってきて、英語はからきしダメなくせに流暢なアイルランド語でコミュニケーション取ろうとし始めたのでみんなびっくりしたと。この笑い話を元にして、数年前ですが短編映画も作られました。ただし、主人公は中国人の男の子になっています。Yu Ming is Ainm Dom (My Name is Yu Ming) というタイトルで、Youtubeでも見れます。

Yu Ming (1/2)

 

 

あとはですねー、これは個人的な体験なんですが、私のお客さんでデリー出身の人が社長さんをやっている会社があったんです。デリーというのは北アイルランドの都市で、カソリックとプロテスタントの対立が激しかったところです。社長さんはカソリックなので、アイルランド人の誇りみたいなものが人一倍ある人だったんですね。その会社はある日本語関係のプロジェクトをやっていたんですが、そのプロジェクトが困難を極めていました。そこで私がヘルプに呼ばれて行ったんですが、フラストレーションが溜まっていた社長さんは、いきなり私に向って「Do you think the Japanese language should be abolished?」(日本語は廃止するべきだとは思わないかね?) と聞いてきたんです。まあちょっとユニークな社長さんではありました。

 

私はそのときそんな質問がされるとは予期してなかったのと (まあ予期している人はいないと思いますが)、abolish ってあんまり日常的に使わない言葉なので、意味が取れなかったんです。それで、「なんの話なんすか」みたいな感じで周りにいた副社長さんとかマネージャーさんとかの顔を見回すと、彼らは申し訳なさそうな顔をして苦笑いしています。社長さんはもう一回同じ質問をしたんですが、それでも私はわからなくて、そのまま話は流れていきました。話が次に流れたとたんに私は「ああ、abolish」って言ったんだとわかったんですが、今にして思えばそのとき即座に理解できなくてよかったかもと思います。わかっていたら、私も若かったですから「Just like the Irish language?」ぐらいの切り返しはしたかもしれません。冷静に考えれば、それはまったく言う必要のない言葉ですから。(アイルランド語が衰退した理由のひとつに、イギリスがアイルランド人に英語の使用を強制したという歴史があるので、抗争の激しかったデリーの出身でカソリックの社長さんに対しては特に言う必要のない言葉、という意味です)。