たらのコーヒー屋さん - 2 店舗目

たらのコーヒー屋さんです。

タラモア蒸留所の見学ツアー

 

前回からの続きでタラモア・デューウイスキーの歴史をちょっと書きますが、1966年にアイルランド共和国の3つの蒸留所が合併してアイリッシュ・ディスティラーズという会社を作り、パワーズ蒸留所で作っていたタラモア・デューもコークのミドルトン蒸留所で作られるようになったというところまで書きました。その後、1994年にアイリッシュ・ディスティラーズは輸出向けのアイリッシュウイスキーとしてジェムソンに資源を集中することにし、タラモア・デューをC&Cグループ (ブルマーズ・サイダーの会社) 売却します。2010年にC&Cはタラモア・デューを含む蒸留酒・リキュール部門をスコッチ・ウイスキーのウイリアム・グラント社に売却。そして、同社がタラモアに蒸留所を建設して2014年に操業を開始したわけです。

 

新しいタラモア蒸留所はタラモアの町の郊外にあります。車で行くとすぐですが、歩いていくのはちょっと厳しいぐらいの距離。車がなければタクシーで行くのがいいでしょう。見学ツアーは1時間に1回で定員は12名。私は予約せずにいきましたが、ラッキーなことにたまたま最後の1枠にすべりこむことができました。土曜日とはいえオフシーズンでこれですから、週末は予約していったほうがいいと思います。

 

見学ツアーの所要時間は2時間。これは蒸留所のツアーとしては長い方ですね。たとえばやはり大手のミドルトンの見学ツアーでも1時間15分くらいです。しかし、タラモア蒸留所のツアーは試飲が3回もあります。それが特徴の1つです。

 

今回のガイドは50代くらいの女性のシーラさん。客は私のほかはオーストリアからの青年3人と、あとはたぶんダブリンからのアイルランド人のグループ。まずウェルカム・ドリンクとしてラグジュアリーなダイニングみたいなところでアイリッシュ・コーヒーをいただきます。ガイドさんが目の前で作ってくれながら、アイリッシュ・コーヒーにまつわる歴史やエピソードを教えてくれます。

 

アイリッシュ・コーヒーの起源には諸説ありますが、有力な説の1つは1950年代にリムリックのフォインズ飛行場 (Foynes Airbase) ターミナルのヘッド・シェフだったジョー・シェリダン (Joe Sheridan) という人が生み出したというもの。ある夜、大西洋横断のフライトがキャンセルとなり、既に飛行機に乗り込んでいた乗客がターミナルに戻ってきます。不機嫌な乗客をなだめるためにシェリダンはありあわせのコーヒーとウイスキーと砂糖とクリームを使ってカクテルを作って提供します。乗客のひとりがコーヒーの産地を聞くつもりで「これはブラジリアン・コーヒー?」と尋ねたところ、シェリダンは「いやアイリッシュ・コーヒーだよ」と答えて、それがアイリッシュ・コーヒーの始まりとなったというのです。

 

もう1つのエピソードは、1952年にサンフランシスコ・クロニクル紙のトラベル・ライターだったスタントン・デラプレーン (Stanton Delaplane) という人がシャノン空港でアイリッシュ・コーヒーを知り、それをサンフランシスコのブエナビスタ・カフェに紹介して、このカフェがアメリカにおけるアイリッシュ・コーヒー震源地となったというもの。ブエナビスタ・カフェはこれまでに3000万杯のアイリッシュ・コーヒーを提供しており、そこで使われるウイスキータラモア・デューだそうです。

 

ガイドのシーラさんによりますと、使うコーヒーの種類はこだわらなくていいと。ただし、クリームは30%フルファットを使うのが重要と言っていました。私は車でしたのでウイスキー抜きのアイリッシュ・コーヒーをいただきました。

 

日本で蒸留所の見学ツアーに行きますと、運転する人に間違えてお酒を出さないように「お酒を飲みません」ステッカーを胸に貼るように配ってくれたりするのですが (お酒を提供した方も罰せられるからだと思いますが)、タラモア蒸留所では飲酒運転はゼロ・トレランス (微量のアルコールでも罰則) というアナウンスはありますが、飲むか飲まないかは大人なんで各自判断してください、ということでした。

 

アイリッシュ・コーヒーの試飲が終わると、隣にある豪華な応接間を模したようなスペースに移動します。引き戸になっている8枚ほどのパネルが正面にあり、そこにウイスキーの製造工程が書かれています。ひととおりの説明が終わって引き戸をあけると、ガラス張りの向こうに蒸留器をはじめとする製造装置が現われるという仕掛けです。

 

階段を降り、装置が並ぶフロアを実際に歩きます。室温が高いのでジャケットを脱ぎます。ウイスキー蒸留所特有の甘い香りが漂っています。10年前にできた新しい蒸留所ということで、最新鋭の設備といった印象です。糖化、発酵、蒸留の装置が1つのフロアにまとめられています。蒸留器は6つありました。タラモア蒸留所では精麦 (モルティング) 以外のすべての工程、つまり熟成や瓶詰も行っています。

 

次はかわいいバスにのって熟成庫に向かいます。タラモア蒸留所には50万樽のウイスキーが眠っているそうです。熟成庫は何棟もあるのですが、そのうちの1棟に実際に入ることができます。引火性が高いということでスパークの出るおそれのある携帯電話などの電子機器もバスの中に置いていかなくてはなりません。

 

熟成庫にはウイスキー樽が7段ほと積み上げられています。見渡す限りの樽です。これは圧巻です。ひととおりの説明のあと、ガイドさんに導かれて樽の間の狭い通路をすり抜けて裏に回ると、そこが第二の試飲スペースとなっています。3面がうず高く積まれた樽に囲まれています。まるで隠れ家のようです。その名も Tully Snug。Tully はタラモア・デューのニックネーム。Snugというのは昔のパブにあった (今でもあるところにはある) 小部屋です。女性がお酒を飲むスペースとされていましたが、町の名士である会計士や弁護士などが人に聞かれてはならない仕事の話をするのにも使われていました。

 

スペースの真ん中に樽が置かれています。この樽の上部の中央にある小さな穴の中に、ドッグ (dog) と呼ばれるチェーンのついた細長い容器をたらし、直接ウイスキーをくみ上げて飲ませてくれます。カスク・ストレングスですからアルコール分は50%を超えます。樽から直接ウイスキーを飲むなんていう体験はあまり他ではできないのではないでしょうか。ちなみになんでドッグというかというと、チェーンがついていて犬のリードみたいだから。昔は職人さんが「ちょっと犬の散歩してくるわ」などと言いながら一杯やりにきたりしたそうです。

 

そして最後に本館に戻って3種類のウイスキーの本格的な試飲です。オリジナル・ブレンド、ラム・カスク・フィニッシュ、10イヤーズ・オールドの3種類ですね。ここでも私は飲めなかったのですが、小さいプラスティックのボトルを3つ用意してくれて、お持ち帰りすることができました。

 

ギフトショップには、味の好みにかんする質問にいくつか答えていくと自分好みのブレンドウイスキーが作れるという機械もありました。私はハチミツの入ったウイスキーベースの甘いリキュールを買いました。昔、タラモア蒸留所ではアイリッシュ・ミストという同様のリキュールがあって、私はけっこう好きだったんですけど、今はケンタッキー・ウイスキーのヘブン・ヒルという会社のブランドになっています。

 

ツアー参加料は43ユーロ。公式サイト

 

追記

新しい蒸留所での見学ツアーが始まったのは2022年3月。2020年10月までは旧蒸留所の建物で見学ツアーが行われていました。

Tullamore Dew invites visitors to ‘dip the dog’ as new distillery tours begin – The Irish Times

 

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