オリンピックが始まりまして、日本はメダル・ラッシュのようですね。よろこばしいかぎりです。
さて、先日の女子サッカー、イギリス対日本戦で、イギリスと日本の両チームの選手が試合前に膝をつきました。これは、反レイシズムの意思を示すためということで、イギリスがずっと行っているジェスチャー。
熊谷紗希主将によれば、「(英国側から)やると聞いた。チーム全員で話し、人種差別について考えるきっかけになった。英国のアクションへのリスペクト(敬意)の意味もあって、やろうと決めた」ということのようです。
正直なところを言うと、私は日本チームが膝をついたのには違和感を感じました。まず、日本には片膝をついて何かの意思表示をするという習慣はありません。また、こちらの方が重要ですが、膝をつくジェスチャーが政治的にニュートラルな人種差別反対のシンボルとは思えないからであり、あのジェスチャーは BLM という政治的・暴力的ムーブメントを強く結びついているからです。
人種差別をなくすという目標には同意しても、それを達成するための方策やアジェンダにはいろいろな意見があって、そこの部分には反対だというのは当然ありえます。つまり、片膝をつくことに同意することは、反レイシズムという価値観への同意ではなく、BLMが採る方策・アジェンダに同意したものだととられかねないのです。
人種間の関係というのは国によってそれぞれです。アメリカやイギリスには、あのジェスチャーを正当化するだけの特殊な人種間関係があるのでしょう。日本を含む多くの国にそれはありません。
先日閉幕したEuro 2020でもいくつかのチームが試合前に膝をついていました。どのチームが膝をついたか、つかなかったかをまとめた記事がありました。参加チームは全部で24です。
全試合で膝をついたチームは3つ: イングランド、ウェールズ、ベルギー。
相手が膝をついた場合に膝をついたチームは7つ: スコットランド、イタリア、ドイツ、トルコ、スイス、フィンランド、ポルトガル (イタリアは一部膝をつかない選手もいました)
残りのチームはまったく膝をつきませんでした。相手が膝をつく場合に拍手したり(イングランド戦のデンマーク)、腕の反レイシズムのワッペンを指さしたり(イングランド戦のチェコ)、相手が膝をついた場合はこちらもつこうと決めていたけれども、そういうチームと結局は当たらなかったチーム(オーストリアなど)も含みます。
相手が膝をついたときだけこちらも膝をつく理由として、イタリアなんかは「(BLM)ムーブメントのためではなく、相手チームとの連帯を示すため」と協会が明言していました。つまり、膝をつくのが政治的にニュートラルな反レイシズムのジェスチャーであると認めたわけではないことを明確にしたわけです。
膝をつくジェスチャーについてはイギリスでも大きく意見が割れていて、プリティ・パテル内務大臣は明確に反対しているし、膝をつく選手にブーイングするファンもいます。その一方で、膝をつく行為に反対する人はすなわちレイシストであると考えている人もいます。
そういう微妙な問題だからこそ、選手に決めさせずに協会が仕切ってあげた方がよかったのではと思います。解決策としては、デンマークのように相手が膝まづいているときに立ったまま拍手するのが日本人的には一番自然なのではないかと思います。膝をつく場合でも、「あくまで相手チームに敬意/連帯を示すため膝をつく」と協会が明言した方がよかったでしょう。そうしておけば、なでしこの選手たちがプレイに関係のないところで論争に巻き込まれることもなかったのではないかと思います。
イングランド対デンマークの試合で、イングランドの選手が膝をつき、デンマークの選手が拍手している動画はこちらから。↓