今は自宅で仕事をしていますが、以前、事務所に通っていた頃は、車の中でラジオを聞いていました。そして、ポーグス/カースティ・マッコールの『ニューヨークの夢』(フェアリーテール・オブ・ニューヨーク) が流れてくると、ああもう年の瀬だなあ、などと思ったものでした。だいたい、11月の中旬~下旬ですね。
この曲は、アイルランドだけでなくイギリスでもクリスマス・ソングの定番で、ワムの『ホワイト・クリスマス』やマライア・キャリーの『恋人たちのクリスマス』と並んで、この季節で最も人気の高い曲の1つとなっています。
実は、この曲には LGBT の人に対する侮蔑語が含まれていて、以前から問題になることがありました。そして遂にBBC は今年、BBC ラジオ1においては、歌詞を編集したバージョンをオンエアすると発表しました。
BBC ラジオ1は若者向けの音楽を中心に流す局で、若い人には侮蔑語を好まない人が多いのではないかという配慮のようです。
もう少しアダルト・オリエンティッドのBBC ラジオ 2 ではオリジナルのバージョンを流し、BBC 6 ミュージックというオルタナ系音楽を流す局では、DJ によってどちらかを選択することができるそうです。
具体的にどこがどう変わるかといいますと、マッコールが歌う「Faggot」が「Haggard」に、マガワンが歌う「Slut」が無音に編集されるということです。
最近は、差別などの社会問題に敏感になる人々が増える一方で、ポリティカル・コレクトネスに神経質になりすぎるあまり言葉狩りが発生しているのではないかと心配する人もいます。
ポーグスのシェーン・マガワンは、2018年のインタビューで次のように話しています。
「Faggot は、(歌に出てくる) 登場人物が使った言葉だ。なぜなら、その言葉が彼女の話し方や人格にマッチしているからだ。彼女は感じのいい人ではなく、円満な人ですらない。歌や物語の登場人物すべてが天使ではないし、ちゃんとしているわけでも、尊敬できるわけでもない」
しかし、ポーグス自体は今回のBBCの対応に同意しているようです。
The Pogues swiftly told those complaining about the censorship of Fairytale of New York, including Laurence Fox, to “f*** off” 🙈 https://t.co/X52KNlQ8ey
— Evening Standard (@standardnews) 2020年11月19日
この曲の主人公は、ニューヨークに移民したアイルランド人のカップルです。若い頃には小さな成功をおさめたものの、年を取り、夢やぶれ、やさぐれていきます。2 人はいまでもカップルなのか、それとも元カレ元カノの状態になっているのかは判然としませんが、お互いを罵り、こんなふうになってしまった責任を相手になすりつけ、人生を嘆くのですが、2 人の間にはそこはかとない愛情と信頼が感じられるという、そんな歌です。
リリースは 1987 年。33年前の歌になります。この曲を書いたとき、シェーン・マガワンはまだ20代後半。その若さでよくこんな酸いも甘いもかみ分けたような深みのある曲を書けたなと思います。彼の誕生日は12月25日です。