この前の誕生日に K ちゃんからアマゾンのギフト券をプレゼントでもらってたんだけど、この間やっと使った。こんなところに住んでいても、ネットで本選んで注文すれば、1週間ぐらいで届いてしまいます。便利な世の中になりました。前はロンドンに行くときに日本の本屋さん行くのがとても楽しみだったんですが。
そのうちの一冊が『世界が指摘する岡田ジャパンの決定的戦術ミス』(宮崎隆司著)です。またサッカーの話ですみません。
これはいい本です。著者の宮崎さんはイタリア在住のジャーナリスト。W杯前に出た本なんですけど、イタリアのプロのコーチ 5 人に取材して、日本代表の試合のビデオを実際に見てもらい、守備について批評してもらおうというもの。
ちょっと技術的な本なので、サッカー観戦初心者の人にはお勧めしませんが、「あそこで点取られたのは○○選手のせいだ」などと掲示板で議論したい人は、読めば絶対参考になると思います。
なんか、情緒的な言葉を連ねる批評本みたいなのはいっぱいあったと思うんだけど、こういう徹底的に技術的なもので一般の人向けのものってあまりなかったと思います。
この本のいいところは、批評したイタリア人コーチたちが、サッカーを愛しており、日本サッカーの発展に心から貢献したいと思うからこのプロジェクトに参加したんだということを、コーチたちの言葉も引用しながら、宮崎さんが繰り返し書いていることです。つまり、この本は日本のサッカーを厳しく批判してるけど、それは何かを壊したいからじゃなくて、作りたいからなんだということを宮崎さんは強く伝えたかったのです。
帯には「オランダ戦ではなぜ、日本の守備は崩壊したのか?」と書いてあって、私は早とちりして「あれ、W杯のオランダ戦で日本の守備は崩壊はしてないでしょ。この人も、大げさなこといって関心を集めて本を売りたいだけなのかな」と思ったのでしたが、ここでいうオランダ戦とは2009年の親善試合のことを指していたのでした。確かにあのときは日本の守備は後半、崩壊したから。
帯には「ここを変えれば、岡田ジャパンは勝てる!」とも書いてある。「こんなだから、岡田ジャパンはダメなんだ」じゃなくて「こうすれば岡田ジャパンは勝てる」っていう建設的な提言になっているところがいいと思います。
前もちょっと書いたけど、はやし立てたいだけの海外のテレビ解説者のコメントをつなぎ合わせて、「だから日本のサッカーはダメなんだ」と結論付けて、W杯での日本の成功をなかったことにしようとするサッカー・ライターの人もいるけど、ああいうのは大げさなこといって不安をあおってお金儲けしたいだけだから、ほんとどうかと思う。
それから、もう一冊ご紹介させていただきますと『沈む日本を愛せますか?』。
これは、私の大好きなお二方、内田樹さんと高橋源一郎さんの対談集なので、楽しく読み進めているんだけど、このタイトルはないよね、正直。
『沈む日本を愛せますか?』っていうんだけど、「日本が沈む」っていうのはまったくの間違いではないと思うけど、それは限定的な意味においてのみ正解だと思います。つまり、これからは新興国が発展してくるから、「経済的」な意味において「相対的」に日本は沈むという話ならわかる。しかし、日本が世界に貢献する方法は経済以外にもいくらでもあるはずなんで、日本が沈むことを既定事実みたいに言うのはまったくおかしい。
たぶん発行人の渋谷陽一さんがショッキングなタイトルにして注目を集めようとしたと思うんだけど、内田さんもかねてから「言語の現実変成能力」がどれほど重要なものかを説いておられるので、このタイトルには反対してほしかった。(「言語の現実変成能力」とは、現実を描写するために言語があるのではなく、言語によって現実が形成されていくということだと私は理解していますが、間違っているかもしれません。詳細は、創造の力、言葉の力、配架の愉しみと語彙についてあたりを参照)。
エントロピー (Entropy) という言葉があります。これは物理学の言葉らしいんだけど、なぜか私は、これが「この宇宙に存在する悪意の総量」を意味するものだとずっと誤解していました。でもまあここまで来たので、とにかく間違ったまま突っ走ってしまいますと、あなたがポジティブな言葉をひとついう度にエントロピーは少し下がります。ポジティブな言葉を言うだけであなたは社会に貢献できるのです。
しかし、自分の利益のためにわざとネガティブなことを言ったり、『報道ステーション』の古館さんのように必要もないのにつらそうな表情を作って見せることで、エントロピーは増大します。それは、世の中から何かを奪い取ることを意味します。そんなことしてたら地獄におちますよ。ほんとです。これは古館さんのためを思って言っています。