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Cóir のポスターへの反論

昨日 (http://blogs.yahoo.co.jp/tarascoffeeshop/21096412.html) の続きです。リスボン条約国民投票で No への投票を呼びかける Cóir のポスターとそれへの反論です。

 

(1) 「Milked Dry! €200 Billion Lost in Fishery. Farming is Next! (お乳も枯れる。漁業は 2,000 億ユーロを失った。次は農業か?)」
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Cóir の議論: Cóir のスポークスマンによれば、EUの漁獲高の 40% はアイルランド近海で獲れたものだが、そこでの操業は EU 各国に開かれているため、アイルランドの漁師はいまでも長時間労働を強いられている。現在は、EU の共通農業政策によりフランスの農業に多くの支援金が渡っているが、リスボン条約が発効すれば、アイルランドの発言権が低下することから、アイルランドの農業はさらに割を食うことになるだろう。アイルランド最大の農家の団体である IFA (Irish Farmers Association) は Yes 陣営についているが、多くの農家は実際には条約に懐疑的であり、条約に反対している、のだそうです。

 

反論: IFA 会長によれば、EU に加盟していることにより、5 億人を超える消費者に制限なくアクセスできる。また、ユーロ通貨圏であることで、利率は低く抑えられている。共通農業政策は数年以内に再交渉される予定であり、この交渉に参加することが重要である、のだそうです。

 

(2) 「New Voting Rights. Germany 17%. Ireland 0.8%. We Lose Under Lisbon. (新しい投票権。ドイツが17%でアイルランドは0.8%。リスボン条約になったら私たちは損する)」
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Cóir の議論: これは、リスボン条約が発効したら、人口比で投票権が割り当てられるので、ドイツは 17% の発言権を得るのに対し、アイルランドは 0.8% の発言権しか得られないぞ、ということを言っています (現在は、ドイツはアイルランドの 4 倍の代表者を欧州評議会に出しています)。

 

反論: EU のスポークスマンによると、リスボン条約が発効すれば、二重多数決システムになるそうです。すなわち、何かを決議使用とする場合は、まず加盟国の 55% 以上の支持を取り付けなければなりません (現在であれば、加盟 27 か国中 15 か国以上)。その後、さらに、3 億 2100 万人の EU 人口の 65% 以上の支持を得る必要があります。したがって、ドイツ、フランス、イタリアなど、人口の多い国がごり押しで言い分を通すことはできないということだそうです。

 

(3) 「€ 1.84. Minimum Wage After Lisbon (リスボン条約が通ったら最低賃金は 1.86 ユーロになる)」
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Cóir の議論: これは、リスボン条約が発効したら、最低賃金が 1.86 ユーロになるぞ、と言っています (現在のアイルランドの賃金は 8.50 ユーロ)。1.86 という数字は、新しく EU に加盟した 11 か国の最低賃金を平均したものだそうです。Cóir によれば、過去数年間で、欧州裁判所は最低賃金に関するいくつかの裁判において、その国で認められている最低賃金よりも低い賃金を支払っていた雇用主に有利な判決を下してきたと。そして、リスボン条約はこの傾向に歯止めをかけるものではない、とのことです。

 

反論: 与党フィアナ・フォイル (Yes 陣営) の下院議員で EU 担当国会委員会副会長でもあるトム・ドゥーリーは、アイルランドの最低賃金はアイルランドの法律で定められるものであって、EU が干渉することはできない。リスボン条約が通っても、この状況がかわることはなく、そこには「もしも」も、「しかし」も、「たぶん」もない、だそうです。

 

(4) 「95% of Europeans would Vote No. (Charlie McCreevy, 2009) Stand Up For Europe (『ヨーロッパの人口の 95% は No に投票するだろう』(チャーリー・マクリービーの 2009 年の発言)。ヨーロッパのために立ち上がろう)」
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Cóir の議論: これは、与党フィアナ・フォイルの要人で元財務相のチャーリー・マクリービーが、「欧州人の 95% は No に投票するだろう」と言った、というものです (欧州の多くの国ではリスボン条約について国民投票は行われず、国会での判断にだけ基づいて批准を決定しています)。だから、欧州のために私たちが立ち上がろうじゃないか、というものです。

 

反論: 欧州委員会の広報官によれば、リスボン条約は非常に専門性の高いもので、多くの説明が必要である、と。何かについて 27 か国の同意を取り付けるのは非常に複雑な作業であって、マクリービーの発言はこの文脈においてなされたものである、と。国際条約への批准をどのように決定するかは国により違いがあって、多くの国では国民の代表者である国会議員によって決定がなされる。アイルランドでは国民投票が行われる。それぞれのやり方が尊重されるべきだ、ということをマクリービーは論じていた、のだそうです。うーん、実際にどういう文脈で彼がこの発言をしたのかわからないのですが、これはマクリービーさんのうっかり発言なんじゃないかという気がします。

 

Cóir の議論とそれへの反論は以上ですが、おおげさにシンプルなメッセージを送りだしているのは No 陣営だけではないということを示すため、Yes 陣営のポスターも掲載しておきます。
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It’s Simple. We Need Europe.

 

うーん。これについては説明の必要すらないですね。
また、上記の反論に対する Cóir からの反論も以下のCóir のサイトで読めます。

 

参考:
Cóir のウェブサイト: www.coircampaign.org
Sunday Tribune紙の記事原文: http://www.tribune.ie/news/article/2009/sep/06/the-coir-question-whos-lying-to-us/