たらのコーヒー屋さん - 2 店舗目

たらのコーヒー屋さんです。

スタンダップコメディーと捕鯨

昨日と一昨日に、リスボン条約に反対している Cóir っていう団体について書きましたけど、この団体の中にいる人たちは、Youth Defence (YD) っていうアイルランドの中絶反対の団体もやっています。根っこのところがカソリックの団体なので、中絶なんかにも反対なわけです。2006 年のことですが、アイルランド政府が人間の胚 (受精してから 8 週間ぐらいまで) を医学に利用するための研究を許可したことを受け、YD はこれに反対するキャンペーンを始めました。

 

YD がキャンペーンに使ったポスターは次のようなものです。

 

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生後数か月の赤ん坊の写真と「Don’t Use Me for Spare Parts. (僕をスペア部品に使わないで)」というテキストが使われています。このポスターは議論を呼びました。研究者が利用しようとしているのは人間の胚であるのに、まるで既に生まれてきた赤ちゃんを利用しようとしているような印象を与えるからです。YD の人々にとっては、人間の胚も赤ちゃんと同じように既に生を受けているということなのでしょうが、人を惑わすような、ある意味、誇大広告と受け止めた人も多くいました。

 

話は変わりますが、YD のこのポスターが話題になっていた頃、私は友達とスタンダップ・コメディーのショーを観に行きました。Bankers というダブリン市内にあるライブハウスのような小さな小屋で、出演者も無名のコメディアンばかりです。こういうショーでは、司会者が最初に「みんなどこの国から来たの?」と必ず聞きます。エスニック・ジョークなどもあるので、事前にこの情報を仕入れておいて、出演者に知らせておくのでしょう。ダブリンはその頃すでにマルチナショナルな都市になっていたので、観客にはいろんな国籍の人がいました。だいたいがヨーロッパの人でしたが。私と友人はめんどくさいので「日本人だよー」とは言わないでおきました。3 人ぐらい観光で来たらしきイギリス人がいて、おずおずと「イギリスからです」と手を上げていました。司会者の人は、「そんなにビクビクしなくていいんですよ。特定の国の人をヤリ玉にあげて笑いを取ったりすることはしませんから」と明るく話していました。イギリスとアイルランドは歴史的にいろいろあったわけですが、そのことをネタにしたりはしないから心配しないで、ということです。

 

ショーが始まり、何人目かにむさくるしい風体の 30 歳ぐらいのコメディアンが出てきました。品のないシニカルなジョークが芸風の人でしたが、彼が YD のポスターの話をネタにしてきました。あんなポスターは嘘っぱちじゃないか。ああいうキャンペーンやる人たちは自分だけが正義みたいな顔しちゃって、ばっかじぇねーの、みたいな話です。

 

で、そのあとに、「ところで、この中で捕鯨に反対の人いる?」と観客に聞きました。私の友だちは (日本人の女性です)、「あー、始まっちゃったよ」みたいな顔して振り向いてきたんですが、先ほどのイギリス人 3 人だけが、結構勢いよく手を挙げたのです。するとコメディアンは、その 3 人に詰め寄って (前の方に座ってたので)、「Why?」と強い口調で問いただしました。「鯨は鯨だよ。人間と違うんだよ。優先順位をはっきりさせとこうよ」と。私は賛成の意思表示をするため拍手しました。拍手したのは私だけでしたけど。ちょっと話題がマジになってしまったので、座が白けたようになったのですが、コメディアンは気にせず次の話題に移っていきました。彼の持ち時間が終了した後、司会者の人が出てきて「いやー、ホェールウォッチングが趣味の人には不快な思いをさせたかもしれませんねー。えらい、すんません」とフォローしていました。

 

っていう話を YD の話が出たので思い出してしまいました。それだけです。