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「アイルランズ・コール」 - ラグビー・アイルランド代表チームのアンセム

今日 (2021/11/06)はアイルランド対日本のラグビーの試合があります。アイルランド時間午後1時キックオフ。場所はダブリンのAVIVAスタジアムです。

 

ということで、アイルランドラグビー代表チームに関するあれやこれやをまとめて動画を作りました。よろしければご覧ください。

 

www.youtube.com

 

こちらのブログ記事に書いたことを土台にして動画を作ったのですが、新しい情報を追加しようと思ってラグビーアイルランド代表チームのアンセムである「アイルランズ・コール」のことを調べてみたらおもしろかったので、そのことについて書きます。

 

 

「アイルランズ・コール」(Ireland’s Call) は、1995年にアイルランドラグビー協会が北アイルランド・デリー出身のミュージシャンであるフィル・クールターさんに依頼して作ってもらったもの。したがって、この歌がアイルランドの試合の前に歌われるようになったのは1995年の第三回ラグビー・ワールドカップ南アフリカ大会からです。

 

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フィル・クールター

 

では、それ以前はどうだったのか。ご存じのように、ラグビーアイルランド代表は北アイルランドアイルランド共和国を合わせて1つの代表チームですから、国旗や国歌については微妙な問題をはらみます。

 

北アイルランドができた1921年から30年代半ばまでは、アイルランドは試合前に曲を流していなかったそうです。それじゃあんまりだということで、アイルランド共和国 (またはその前身であるアイルランド自由国) 内で試合するときはアイルランド共和国の国歌である「ザ・ソルジャーズ・ソング」、北で試合するときはイギリスの国歌である「ゴッド・セイブ・ザ・キング」(まだエリザベス女王は即位していなかったので)を歌うことになりました。アウェイや中立地では曲は流さないという仕来りは残りました。

 

それでもやはりわだかまりはあったようで、たとえば1954年のファイブ・ネーションズの試合はベルファストで行われたのですが、南出身の選手は試合前のゴッド・セイブ・ザ・クイーンの演奏が終わるまでフィールドに出ないと協会に対して抗議したそうです。そこで選手と協会の話し合いの結果、イギリス国歌は「ロイヤル・サリュート」と呼ばれる短縮版のみを流し、今後のフル代表の試合はすべてダブリンで行うという妥協案で事態は解決しました。実際にフル代表の試合はこのときから2007年まで北アイルランドでは行われませんでした。

 

また、デス・フィッツジェラルドという選手は、ゴッド・セイブ・ザ・クイーンが演奏されるということで、1982年にベルファストで行われるB代表の試合を辞退したそうです。

 

アイルランド国歌の「ソルジャーズ・ソング」が試合前に歌われることへの反対が強まったのは1987年。IRAが道路に仕掛けた爆弾が爆発し、裁判官が1人死亡したほか、代表チームのトレーニングに参加するためダブリンに向かっていた3人のラグビー選手が負傷したのです。1人はこのときの怪我により選手としてのキャリアを断たれました。

 

その1か月後、第一回のラグビー・ワールドカップニュージーランド/オーストラリアで開かれました。これまでは中立地ではアイルランド国歌を流さない仕来りでしたが、ワールドカップという晴れ舞台であり、他の国はすべて国歌を歌うのに、アイルランドだけ何の曲もないのはどうなのか、という議論が選手の間でも起きたようです。

 

初戦の直前になって、フィル・オール選手が持っていたジェイムズ・ラスト (ドイツの指揮者) のカセットから「The Rose of Tralee」(トラリーのバラ)を流すことに決めました。ところがこれが評判が悪かった。曲自体が甘いラブソングで戦いの場にそぐわないというのもありましたが、カセットの音質もひどかったようです。なので、残りの試合では曲なしですませることになりました。

 

第二回のワールドカップアイルランドもホスト国の1つだったので、ダブリン以外で戦ったのはエジンバラでのスコットランド戦だけ。このときも試合前の曲の演奏はありませんでした。

 

そこで第三回のワールドカップに向けて、「アイルランズ・コール」が作られたということです、それ以来、アイルランド共和国内で行われる試合ではアイルランド国歌と「アイルランズ・コール」の2曲が歌われ、それ以外の場所で試合するときには「アイルランズ・コール」だけが歌われます。北アイルランドで試合するときになぜゴッド・セイブ・ザ・クイーンを歌わないんだと不満に思っている人は、いるかいないかというといます。

 

ちなみに、現在ではホッケーやクリケットなど、アイルランド島全体で1つの代表チームを作る他のスポーツでも試合前にこの歌が歌われています。

 

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ちなみに、ランズダウン競技場 (今 AVIVA スタジアムと呼ばれているところ) が改装中に、ラグビーGAAのクローク・パークを借りて試合をしました。クローク・パークは1920年血の日曜日と呼ばれる英軍による虐殺が起きた場所です。2007年のシックス・ネーションズイングランド戦において、試合前に演奏された「ソルジャーズ・ソング」と「アイルランズ・コール」を、クローク・パークに詰め掛けた観客は涙を流しながら大声で歌った、とアイリッシュ・タイムズは記事にしています。

 

2007年シックス・ネーションズイングランド戦@クローク・パーク

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2015年W杯対アルゼンチン戦@ミレニアム・スタジアム (ウェールズ)

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2023年9月28日追記: 

クランベリーズの『ゾンビ』が新しくアイルランドラグビーの非公式アンセムとなった経緯についてはこちら。

tarafuku10.hatenablog.com