たらのコーヒー屋さん - 2 店舗目

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ダブリンのストリート・ステッカー

 

ダブリンの街なかを歩いておりますと、標識や信号機のポールなどにステッカーがペタペタ貼ってあります。厳密にいえば公序良俗に反する行為ということなんでしょうが、そんなことはお構いなしで、ほんとにたくさんのステッカーが貼ってあります。

 

そういうステッカーの写真をいっぱい撮って、2本の動画にしました。それぞれ 321 枚のステッカーが含まれています。

 

www.youtube.com

 

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種類別でいうと、サッカー関係のステッカーは多かったです。ダブリンのサッカー・チーム (ボヘミアンズ、セント・パトリックス、シェルボーン、シャムロック・ローヴァーズなど) もあれば、外国のチームのもあります。外国のチームのではドイツのステッカーが多かったです。各チームのサポがダブリンに観光旅行に来て、ついでにステッカーを貼っていく、みたいな感じでしょうか。ドイツはそういう文化が盛んなのかもしれません。

 

それから、もちろん政治的なもの、イデオロギー的なものもあります。一番よく見かけたのはトランスジェンダーの権利を主張するもの。それから、やはりアイルランド民族主義的なものもいくつかありました。

 

でも、圧倒的に多いのは、なんのものかははっきりよくわからないステッカーです。面白い絵柄が描かれているのでそれはそれで楽しいのですが、貼っている方も貼る行為が純粋に楽しくてやっているんでしょうかね。よくわかりませんが。

 

ストリート・ステッカーについてネットで調べていたら、RTE のサイトに面白い記事が掲載されていました。

 

www.rte.ie

 

これは、コーク大学ビジネス・スクールのスティーヴン・オサリヴァンという教授が書いた記事で、ストリート・ステッカーについてかなり好意的です。

 

教授によれば、過去20年間で社会生活において最も急激に変化したのはコミュニケーションと表現だそうです。デバイスもどんどん変化しましたし、コミュニケーション手段も SNS の出現によって大きく変わりました。

 

教授はここでマーシャル・マクルーハンを引用します。マクルーハンは「メディアこそがメッセージである」と言ったそうです。これは意図的に逆説的な言い回しになっているそうですが、つまり電子通信技術によって人の行動が変わってきているということ。たとえば、昔のコミュニケーションは聴覚ベースでしたが、いまは通信デバイスの発達により視覚的なコミュニケーションが勢力を伸ばしています。

 

そして、こうした通信 (SNS など) というのはだいたいにおいて利益を追求する私企業により運営されています。なぜ人々はたいして考えもせずにこうした通信手段を受け入れてしまうのか。教授は、私たちの生活に大きな影響を与える通信手段についてもっとよく考えるべきだと主張しています。

 

教授はこうした電子通信手段に対抗する通信手段としてストリート・ステッカーを見ているようです。街なかで反復的に見られるありきたりな電柱、信号、橋、ごみ箱などは、政府/自治体によってコントロールされているということもできますし、一般人の表現のためのキャンバスとも見ることができるグレイな領域です。歴史を見てみれば、音楽や詩や銅像や旗や装飾など、人々はさまざまな形で公共の場で自分を表現してきました。ステッカーを貼る行為もそれの延長線上にあるものということができるそうです。

 

ダブリンのサッカーチーム、ボヘミアンズの女性サポーターのステッカー。
アイルランド語で「Bohs の女」と書かれています。Bohsはボヘミアンズの愛称です。 

 

もちろん、ステッカーを貼る行為はヴァンダリズム (器物破損) とみられることもあり、管理者や当局によって剝がされることもあります。しかし、オサリヴァン教授はステッカーを剥がす行為に疑問を呈します。ステッカーというメディアを消し去ることは、批判的思考のパワーや多様な視点の結合を制限することになるというのです。さらに、表現のコントロールが密かに強化されることにもなります。一般の人の表現は、監視され、制御され、商品化されるデジタル・メディアに閉じ込めておくべきなのでしょうか、というわけです。

 

サリヴァン教授は、人々は利益主導のデジタル技術を離れた場所でも表現することを奨励されなければならないと主張します。コントロールされたデジタル・メディアにこれ以上依存しないためにも、社会問題について表現するための物理的なスペースが確保されるべきだと主張します。

 

デジタル・メディアは監視されているにも関わらず、そこは公共の場所なのだという幻想を人々に与えます。それに対抗するためにも、ステッカーのような特殊なメディアであっても、公開の表現を受け入れるあらゆるメディアを保存する必要がある、というのがオサリヴァン教授の主張です。

 

 

 

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