スチューデント・アコモデーションというのは、学生に貸すという目的で作られたアパートのことです。個室のベッドルーム兼勉強部屋があり、キッチンとバスルームは6人ぐらいで共用するというスタイル。アイルランドの大学の寮に行ったことがある人はわかると思いますが、あんな感じです。Purpose-Build Student Accommodation の略で PBSA と呼ばれます。
このスタイルのアパートが最近いっぱいできていて、アイルランドではちょっと問題になっているのです。アイリッシュ・タイムズに詳しい記事が出ていたので、要約してみます。
PBSA の建設が認められたのは2016年のこと。アイルランドでは一般的ではなかったスタイルだけれども、他の国には結構あるのだそうです。常駐のスタッフがおり、ビリヤード台やシネマ・ルームもあったりするので、学生向けとしては少しラグジュアリーなアパートですよ、ということで宣伝されるようです。
ダブリンの中心部 (北と南の運河の間) には PBSA が 44 棟あり (計画中のものも含む)、部屋数は9000 から 10000。
PBSA が問題なのは、利益率が高いので、少々高めの値段で土地を手に入れてしまうということ。一般的な家屋やアパートを建てようとする開発会社は追い出されてしまいます。
PBSA に住む学生は長くても数年で入れ替わりますから、地域が有機的に成長しにくいということになります。
ダブリン市役所の担当者であるジョン・オハラさんは、政府と高等教育局から、ダブリンには80000人の学生がいる、ダブリンをエジンバラやグローニンゲンみたいな学生都市にしようと提案され、反対する理由はなかったわけです。それで、2016年にPBSAを開発するためのガイドラインが策定されました。
ダブリンは街の中心部に開発されないまま野原になっているところがたくさんあったんですよ。20年も30年もそのままになっているみたいな。そこを活用したいという思惑もあったわけです。
あと、数年前は、家賃が高くなりすぎて、学生が住む部屋がないなんてこともよく言われておりました。
アイルランド学生ユニオンの会長であるクレア・オースティックさんは、PBSA は学生が住みたいと思うような場所じゃないと言っています。端的に言って高いのです。PBSAの家賃は平均250ユーロ/週。全体の平均は197ユーロ/週です (ただし、PBSAの家賃には電気代とかが入っています)。大学に補助金を出して、大学が建てるようにした方がいいのでは、と彼女は提案しています。
TUダブリンの講師で住宅供給アナリストのローカン・サーさんは、開発会社が数を読み間違えたと言っています。UKでは18歳になると家を出て自分で部屋を借りるそうですが、アイルランドでは実家に留まる人が多いそうです。そういう伝統というか文化を考慮に入れずに建てちゃったということです。
ダブリンの都市圏やラウズ県やウイックロー県に住む学生が約40 – 50%。この人たちは通学します。地方から出てくる人も、コネを頼りに住む場所を探す人が多いそうです。
実際のところ、2019年のEY (アーンスト・ヤング)の調査によりますと、PBSAに住む79%が外国からの学生だったそうです。
PBSA を擁護する人の意見も掲載されています。この人はトリニティ大学の経済学准教授のローナン・ライオンズさん。「PBSAはちょっと悪く言われすぎ。金儲けの手段に過ぎないと見られているが、実際に学生数に対して借りられる部屋の数は少ない。公共交通手段に頼りすぎでは。現在の家賃が高いのは認めるが、競争が激しくなれば安くなってくるだろう」とのことです。
いろいろな批判を受けて、PBSA の建設許可は2020年11月以降はほぼ下りなくなりました。ただし、駆け込みの申し込みがかなりあったようです。
労働党上院議員のマリー・シャーロックさんが恐れているのは、学生向けであったものが、利用用途を変えて一般向けに短期で貸し出されるのではないかということ。実際、パンデミックのせいで学生の住人が減っており、一時的に利用目的を変更する許可をもらった PBSA 運営会社もあるようです。これがもしかすると長期的なものになってしまうのではないかと彼女は恐れています。
私の住むエリアの近くには TU ダブリンのグランジゴーマン・キャンパスがありますので、PBSAが何棟かあります。現在建築中のものもあります。私の事務所を借りていた、昔はジェムソンの建物だったビルも取り壊されて、今は PBSA を建設中なんですよね。古い建物が取り壊されたので、少し寂しい気持ちもあります。
学生さんが来るので活気が出るとは思うのですが、あまりに学生さんばかりになるのはちょっと、という気持ちはあります。やはり地域に根を下ろした人も住む、バランスのよい人口構成になればいいと思います。
