今週、アメリカの株式市場を賑わせたのは、ゲームストップというゲーム小売りチェーンの株の急騰です。アイリッシュ・タイムズでも記事になっていました。ゲームストップはダブリンにもお店ありますね。
簡単に言うと、ゲームストップ社は業績のよくない会社なので、ヘッジファンドが大量に空売りを仕掛けていた。それに目を付けた個人投資家が、アメリカのReddit という掲示板に集い、束になって株価を吊り上げたというもの。今年のはじめに19ドルほどだった株価は今週になって高騰し、今週末の終値は325ドル。
ヘッジファンド vs 個人投資家というマッチングなので、はたから見ている分にはどうしても判官びいきで個人投資家を応援してしまいます。まあ、買い方にもたぶん大口が入っていると思うので、単純なゴライアスとダビデの戦いみたいな感じではないと思いますが。
Reddit で音頭を取っていたのは Roaring Kitty というマサチューセッツ州のキース・ギルさんという男性。金融会社でアナリストをやっていたといいますので、やはり株取引とか財務諸表の見方とかの知識はある方のようです。
ギルさんは2019年半ば、株価が1ケタ台の頃に53000ドルを投資してそれを Reddit に投稿します。今週水曜日、その投資が4800万ドルになっている画像を Reddit に投稿しました (NYT紙によれば、この投稿内容が真正であるかどうかは第三者のチェックは受けていません)。オプション取引なので、単に株価があがった以上の含み益が出ているようです。
ブルームバーグの専門家は、ギルさんのような投資家の台頭は数年前では考えられなかったとしています。これを可能にしたのは、ロビンフッドのような手軽にスマホで利用できる株式取引アプリの登場、そしてSNS で個人が簡単に情報を交換できるようになったことです。あと、今はアメリカのオンライン証券会社の取引手数料は無料なので気兼ねなく売買できます。私の経験だと、数年前までは1回の取引で5ドルとか6ドルとか払ってたんですけど、いまは無料です。
なぜ手数料を無料にできるのか、ということが前から疑問だったので、今回ちょっと調べてみました。こちらの資料を参考にさせていただきました。
https://www.jsri.or.jp/publish/report/pdf/1720/1720_03.pdf
清水葉子さんはこのレポートの中で、ロビンフッド社が無料で株式売買サービスを提供しながら収益を上げられる理由を5つ挙げているといいます。
まず (1) は説明の必要はないでしょう。(3) はユーザーの口座にあるキャッシュを低リスクの短期金融市場に回して利ザヤを稼ぐごと。(4) は信用取引 (手持ち資金/株を担保にお金を借りて取引すること、当然利息がかかります) の金利。(5) はロビンフッド経由でカードを作るとカード会社から手数料がもらえる、みたいなやつだと思います。
難しいのは (2) です。これについては、私も理解できたかどうか怪しいんですが、がんばって説明します。まず、アメリカの証券取引の場は大きく分散していて、ニューヨーク証券取引所やナスダックでも単独市場としての取引高シェアは2割未満と低い。上場企業を持たず流通市場であることに特化した新興証券取引所や取引所外取引システムなど、さまざまな取引形態が存在する。こうした取引所外のディーラーは、リテール証券会社 (ロビンフッドなど) からの顧客注文の回送をめぐって激しく競争している。そこで彼らはリテール証券会社にリベートを渡すなどして便宜を図っている。そこの部分がリテール証券会社の利益になっているということらしいです。
ゲームストップの株価の話に戻りますけど、今回の事件はもちろん賛否両論で、これこそ資本市場の民主化・機会均等化だと支持する人もいれば、これは株式市場のカジノ化だ、(これだけ株価が乱高下するから当然大損する人も出てくるので) 個人投資家を守らなければならない (なんらかの規制が必要だ) という人もいます。
Reddit には、今回のことで学生ローンが返済できたよ、とか、医療費を完済できたよ、なんて投稿もあるそうで、そういう話をきくと単純に「よかったなあ」なんて私も思うわけですけど、たぶん大やけどした人もかなりいるんじゃないかと思います。