先月の話なんですけど、ちょっといい話なのでご紹介します。
新型コロナのせいでアイルランドはロックダウンが敷かれています。いろいろ行動制限が掛けられていて、不要不急の用事で県境を越えて移動することはできません。
ウイックロー県のラウンドウッドに住むケヴィン・ハリントンさんはハープ職人。元々はコークの出身ですが、ヴァイオリン製造職人としてロンドンで修行。アイルランドに戻ってきてヴァイオリンやヴィオラの修理や製造を行っていたのですが、思い立ってハープを製作したところ、その魅力に取りつかれ、今はハープを主に手掛けているとか。
ダブリンに住む 10 歳の少女、ムアリン・ニー・マーヒラ (Muireann Ní Mhuirthile) さんはハープ奏者。6歳のときに見たディズニーのアニメ映画をきっかけにハープを始め、パンデミック中はオンラインでレッスンを継続。ロイヤル・アイリッシュ・アカデミー・オブ・ミュージックの資格試験にも合格しています。
これまでレンタルの楽器で練習していたのですが、ダンレアリの図書館で開かれたあるイベントでハリントンさんのハープを見て購入を決定。ロックダウンが始まる前に24弦のモダン・アイリッシュ・ハープを発注しました。ハープは桜の木でできていて、値段は4500ユーロ。やはり、いい値段しますね。
もともとは、ロックダウンになったら県境で落ち合って受け渡さないといけないかもね、などと冗談で話していたそうです。ところがその冗談に足が生え、受け渡しは本当に県境で行われることになりました。
(「冗談に足が生え」というのは「The joke grew legs」という表現が記事の中にあって、面白いと思ったので直訳させていただきました)
10月14日の水曜日、マーヒラ家とハリントンさんはダブリンとウイックローの県境にあるフェザーベッズ (Featherbeds) という場所で落ち合います。サイクリングが趣味のムアリンさんの叔父さんが県境で会える場所をいくつかピックアップしてくれて、その中から選んだそうです。
ちょうどこの週の週末はナショナル・ハープ・デイというハープの記念日。ロックダウン中なので演奏会などのイベントは今年は開かれませんでしたが、ムアリンさんにとっては最高の記念日になったはずです。
ハリントンさんと別れて車で家に帰る途中、ムアリンさんはバックシートで誰にもわからないように涙を流していたそうです。
ムアリンさんのお母さんのバーバラさん。「ハープは私たちにとってアイルランドの象徴。その楽器を弾きたいと思っている人が家族の中にいることは、とても名誉なことです」。