先日、うちの近所を散歩していたら、よくわからないモニュメントがいきなりできていてびっくりしました。
これは、ユタ・ティーポットと呼ばれるものだそうです。コンピュータグラフィックス (CG) の分野において標準的に使われる、ティーポットの3Dモデルだそうです。1975年、ユタ大学のマーティン・ニューウェル（Martin Newell）氏によって制作されたものです。ニューウェルさんはレンダリングした結果だけでなく、モデリングの数値データも公開したので、他の研究者もさかんにこのモデルを使用するようになったとのこと。
このモニュメントを作ったのはアラン・バトラーさんというアーチスト。ダブリン市が「スカルプチャー・ダブリン」という企画をやっていて彫刻六連作の2つ目だそうです。このティーポットは、アイルランド人の暖かさ、そしてスミスフィールドで暮らし、働き、楽しみ、通り過ぎる人のつながりを表すシンボルだそうです。また、ダイナミックでクリエイティブな産業のハブとしての現在のスミスフィールドを表すものだそうです。スミスフィールドは昔のコミュニティの面影を残しつつも、世界規模で活躍する会社や組織にもスペースを提供しています。
実はスミスフィールドには、世界的に活躍するアニメーションの制作スタジオがあるのです。ブラウン・バッグ・フィルムズという会社です。この会社が製作した『Give Up Yer Aul Sins』(2000年)と『Granny O'Grimm's Sleeping Beauty』(オグリムおばあちゃんの眠りの森の美女)(2008年)はアカデミー賞の短編アニメーション部門にノミネートされました。
ご存じの方も多いと思いますがアイルランドはアニメの制作も盛んなのです。
このブラウン・バッグ・フィルムズはダブリンで1994年に設立された会社。最初はアイルランドやイギリスのテレビ局のためにアニメーションを作っていたのですが、そのうちにハリウッドとも仕事をするようになります。
2007年にスミスフィールドに新しいスタジオを構え、ますます会社は大きくなります。2015年にカナダの9ストーリーという制作会社に買収され、現在は9ストーリーの2Dおよび3Dアニメすべてを担当し、ダブリン、マンチェスター、トロントのスタジオを統括しています。最近のヒット作は子供向けアニメテレビ番組の『ヘンリー・ハグルモンスター』や『ドックはおもちゃドクター』(Doc McStuffins) などです。
ほかにもアイルランドの有名なアニメ制作会社としては、キルケニーに本拠を置く Cartoon Saloon があります。この会社は1999年の設立以降、長編アニメを4つ製作しているのですが、4つともがアカデミー賞の長編アニメ部門にノミネートされています。『ブレンダンとケルズの秘密』(2009) 、『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』(2014)、『生きのびるために』(2017)、『ウルフウォーカー 』(2020)です。『Late Afternoon』っていう短編も短編アニメ部門にノミネートされたことがあります。
また、ダブリンのバリファーモットというところにはバリファーモット成人向けカレッジ (Ballyfermot College of Further Educations) というのがあって、そこにアニメーションの制作を学べるコースがあるそうなんですね。『オグリムおばあちゃん』のプロデューサーでブラウン・バッグ社の創設者であるダラ・オコネルさんや『ケルズの秘密』のトム・ムーア監督は、ここで同じころに学んだそうです。
ちなみに、アイルランドのアニメ業界の発展にはジミー・ムラカミさんという日系人アニメーターが大きな役割を果たしています。「アイルランドのアニメ業界の父」などとも呼ばれているようです。
1933年生まれのムラカミさんは、1970年に映画のロケでアイルランドに来て、(おそらく) アイルランド人女性と結婚してアイルランドに残り、会社を作って実写やアニメでコマーシャルを製作したほか、ハリウッドやロンドンなど、世界を股にかけて仕事を続けました。大ヒットした『ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ』もムラカミ・ウルフというダブリンの会社で製作したそうです。また彼が監督した『風が吹くとき』(1986)という短編アニメは日本でも有名だと思います。ダンレアリにある芸術学校や前述のバリファーモットの学校などで後進の指導にもあたったそうです。
ムラカミさんは惜しまれながら2014年に80歳で亡くなり、アイリッシュ・タイムズにもお悔やみ記事が掲載されました。
アイルランドのアニメ業界のここ10～20年ぐらいの発展は目覚ましく、2007年ごろにはアニメ業界でフルタイムで働く人は70人ほどに過ぎませんでしたが、2017年の段階でその数は20倍以上に増えました。現在はさらに増えているものと思われます。
