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ジャズなどで「クール」「グルーヴィー」などの意味で使われる「Dig」の語源はアイルランド語?

先日のスラングの話の続きです。記事の最後にアイリッシュ・タイムズ紙の記事をご紹介しましたが、その中にちょっと「えっ」と思うようなことが書いてあったんですね。

 

ジャズの世界などで、「クール」とか「ヒップ」とか「グルーヴィー」とかの意味で、「dig」っていう単語が使われたりします。で、その語源がアイルランド語だって言うんですよ。

 

f:id:tarafuku10:20201114205330p:plainアイルランド語に「tuig」という動詞があって、これは理解するという意味。「an dtuigeann tú?」で「Do you understand?」という意味だそうです。この「tuig」がなまって「dig」になったと。

 

で、これについてもう少し掘り下げてみたところ、2009年3月にフランク・マクナリーさんという人が同じくアイリッシュ・タイムズ紙に書いた 2 つのコラムにぶちあたりました。

 

www.irishtimes.com

 

www.irishtimes.com

 

3月6日付けの第一のコラムでは、スラングの「dig」という言葉を作ったのは、著名なジャズ・サキソフォニストのレスター・ヤングであるという話が紹介されています。ヤングは言葉について独特の感覚があったようで、「cool」を「涼しい」ではなくて「かっこいい」「おしゃれな」の意味で使い始めたのもこの人だと言われています。

 

www.youtube.com

 

3月13日付けの第二のコラムでは、スラング的な用法の「dig」の語源はアイルランド語ではないかという説に触れられています。

 

このコラムによると、ニューヨーク生まれのアイリッシュアメリカンであるダニエル・キャシディーという人が、『How the Irish Invented Slang』(アイルランド人はどのようにスラングを生み出したか?) という本を 2007 年に出版しました。

 

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この本の中でキャシディーは、アメリカのスラングのいくつかがアイルランド語に由来するものであると主張しているそうです。その中の 1 つが「dig」。

 

この本は 2007 年のアメリカン・ブック・アワードを受賞するなど、話題になった本なのですが、学者さんからは学術的には正確ではないと批判を受けているとか。

 

同書に対するある学者さんの批判の言葉:「国民的/言語的/民族的プライドに基づく発音や綴りの明らかな類似よりも、日付がはっきりしており、継続的で、文脈もわかる書面の用例の方が、常に優先されるべき証拠である」。

 

しかし、キャシディーにとっては、書かれた用例の少なさこそが彼の議論の中心なのです。つまり、アイルランド語は長きにわたって抑圧されてきた言語なのだ、という主張です。もっと言えば、たとえば、オックスフォード辞書など定評のある英語辞書の編纂者は客観的なフリをしていますが、ほんとうのそうなのか、という話です。

 

キャシディーという人は、映画を撮ったり、レコードを出したりするなど、サブカル的な活動をしつつ、ニュー・カレッジ・オブ・カリフォルニアという新興の大学で「アイリッシュスタディーズ」の学科を開設するなど、アカデミックな仕事もしていたようです。

 

「ブラック・スタディーズ」や「ウィメンズ・スタディーズ」など「スタディーズ」が付くのはだいたいアイデンティティ・ポリティクスの学問ですから、「アイリッシュスタディーズ」もその類でしょう。だから、たぶん、学者さんの批判の中にある「国民的/言語的/民族的プライドに基づく」というのもあながち的外れではないのでしょう。

 

キャシディーの大胆な主張をもう 1 つご紹介すると、「jazz」の語源はアイルランド語の「teas」だというのです。これは、熱、情熱、興奮などを意味する言葉です。「jazz」という言葉がもともとは性行為を表す言葉だったことはよく知られているそうです。そして、レスター・ヤングが「cool」の新しい用法を編み出す前は、ジャズの世界では「hot」が最高の褒め言葉だったわけです。

 

というわけで、「dig」の語源がアイルランド語の「tuig」であるという説は現在もまだ審議中といったところでしょうか。残念ながらキャシディーは 2008 年に 60 代前半でお亡くなりになっています。私もさっそくアマゾンでこの本を注文しました。

 

 

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