2019年の夏の終わりにオープンしたロウ&コ (Roe & Co Distillery) 蒸留所は、リバティーズ地区で操業する4番目の蒸留所となりました。
ロウ&コ蒸留所は、ディアジオ社が親会社です。ご存じのようにディアジオ社は、アイルランドのビール会社であるギネスと、イギリスのグランド・メトロポリタン社との合併により1997年に生まれた会社です。ディアジオ社は、スミノフ、ジョニー・ウォーカー、ベイリーズ、そしてもちろんギネスなどのブランドを所有しています。
合併に先立つ1986年、ギネス社はスコッチ・ウイスキーの代表的メーカーであったザ・ディスティラーズ社を買収しています。したがって、ディアジオ社は数多くのスコッチ・ウイスキーのブランドを所有しているのです。例をあげれば、ジョニー・ウォーカーのほか、ベルズ、ブラック&ホワイト、ブキャナンズ、オールド・パー、ヘイグ、ホワイト・ホース、タリスカーなどです。
巨大アルコール飲料企業であるディアジオは、バーボン (IWハーパー)、カナディアン・ウイスキー (クラウン・ロイヤル)などのブランドも傘下に収めていました。ところがアイリッシュ・ウイスキーのブランドはまったく持っていなかったのです。そこで、アイリッシュ・ウイスキーもポートフォリオに加えたい、と思ったのがロウ&コ蒸留所を作った1つの理由ではないかと思います。
また、歴史のある有名ブランドが古臭いと感じる人が多くなっているようで、ビールでもクラフト・ビールの人気が高まっています。ギネスでも、ホップ・ハウス13、ギネス・ウェスト・インディーズ・ポーターなど、クラフト・ビール風の製品をプロデュースし、コマーシャルなどにもかなりの予算を使っています。同様に、ウイスキーに関しても、マイクロ・ディスティラリ―に投資することで、若々しくてチャレンジ精神旺盛なイメージを打ち出したかったというのもあるのでは、と私は思っています。
ロウ&コ蒸留所は、ギネスビール工場/ビジター・センターのすぐそばにあります。また、ピアース・ライオンズ蒸留所も目と鼻の先です。蒸留所の建物は、もともとはトーマス・ストリート蒸留所の一部でした。1800年代後半の全盛期にはダブリン最大の生産量を誇った蒸留所だったのですが、残念ながら1920年代に財政難から操業をストップしてしまいました。
ギネスに譲渡されたこの建物は、ギネス工場用の発電所としてしばらく使用されました。その務めを終えたあと、しばらく廃屋になっていたのですが、ディアジオが2,500万ユーロを投資したことにより、蒸留所として生まれ変わったのです。
蒸留所ができてすぐの2019年9月に私はさっそく蒸留所見学ツアーに参加してきましたので、そのときの様子をご紹介したいと思います。
25ユーロでチケットを買い、ショップ兼バー/カフェみたいなスペースで時間が来るまで待ちます。
平日ということもあってか、私以外の見学者は8人ほど。全員がアイルランド人でした。2階に上る階段のところでガイドさんの説明を聞きます。下の写真にあるように、階段の壁にはアイリッシュ・ウイスキーの歴史が書いてあります。
次は渡り廊下の上から、実際に稼働している蒸留過程を見ることができます。アイリッシュ・ウイスキーは伝統的に3回蒸留すると言われますから、ここにも3つ蒸留器がありますね。
次は、Room 106 という部屋に入ります。
106というのは、最終的に商品を完成させるまでに試したサンプル・ブレンドの数だそうです。ここでは、実際のウイスキーを味見しながら、原料や作り方などについて説明を受けます。
次の部屋は Flavours Room という名前なのですが、ここがこの蒸留所のツアーのユニークなところになります。好みに合わせて自分でカクテルを作りましょう、という趣向なのです。
甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の中から1つを選び、ロウ&コ・ウイスキーをベースにして作るのです。私はカクテルを作るのも初めてだし、メジャー・カップを触るのすら初めてじゃないかなと思います。これはおもしろかったです。
最後はバーでのんびりワン・ドリンク。せっかくなので私はカクテルをいただきました。
この見学ツアーの特徴は、カクテルに重点を置いていることや、バー/ショップの内装からもわかるように、若い男女をターゲットとしていることです。ウイスキーと言うと、渋めの男性がロック・水割り・ストレートで飲んでいるという印象が強いと思いますが、そういうイメージとは別の路線を目指しますよ、ということなのでしょう。ボトルのデザインにもその意思は表れているように思います。
ロウ (Roe) という名前は、トーマス・ストリート蒸留所を経営していたロウ一族にちなむものです。1800年代後半に、世界最大のビール醸造所であったギネスと、世界最大のウイスキー蒸留所を所有していたロウ一族が、21世紀になって合体したということになります。
私は見学ツアーに1人で参加したのですが、カクテルを作るときにわいわいできるので、お友達と出かけた方が楽しいと思います。いまウェブページを調べてみたら、時間帯によっては、17ユーロで入場できるようです。