ティーリング(Teeling)蒸留所は、ジャックとスティーブンのティーリング兄弟により、2015年に操業が開始されました。ダブリンでウイスキー蒸留所が稼働するのは、1976年にジョンズ・レーン蒸留所が閉鎖されて以来、ほぼ40年ぶり。ダブリンに新しい蒸留所がオープンするのは125年以上ぶりのことでした。
ティーリング兄弟の父親であるジョン・ティーリングも、アイルランドのいわば名物社長です。アイリッシュ・ウイスキー産業が低迷していた1985年に、ダンドーク県にあった国営のじゃがいも蒸留酒の蒸留所を買い取り、クーリー蒸留所を創業しました。当時のアイルランド島にはアイリッシュ・ディスティラーズ社のニュー・ミドルトン蒸留所とブッシュミルズ蒸留所しかなかったわけですから、小さな蒸留所を開くのは大きな冒険だったと思います。
ティーリング家の祖先は1782年にザ・リバティーズのマールボロ・レーンという通りに小さな蒸留所を開いたそうです。何世代かの隔たりはありますが、ウイスキー蒸留を家業としていたティーリング家が、創業の地に戻ってきて新たな伝統を築こうとしているわけです。ティーリング・ウイスキーのブランド・シンボルには不死鳥が描かれています。これはティーリング・ブランドの復活を象徴しているのだそうです。
ジョン・ティーリングは2012年にクーリー蒸留所をビーム社に約100億円で売却。その後、サントリーがビーム社を買収したため、現在はサントリーがクーリー蒸留所を所有しています(正確には、サントリーの子会社であるビーム・サントリー社が所有)。この売却で得た資金を元手に、ティーリング蒸留所を設立したのでしょう。
ティーリング蒸留所はリバティーズのニュー・マーケット (New Market)という場所にあります。私事になりますが、私は2011年頃からほぼ毎週、ニュー・マーケットを訪れていました。現在のティーリング蒸留所の隣の建物で、毎週日曜に蚤の市などのマーケットが開かれていたからです。
新聞でこのあたりに新しい蒸留所ができるという話は聞いており、なんか基礎工事を進めているな、と思っていたのですが、あるとき、いきなりといった感じで建物の全貌が姿を現しました。次の写真は2015年5月初めに撮影した建設中のティーリング蒸留所の写真です。
当時はまだ新しい蒸留所はまだ珍しかったことですから、私もオープンを楽しみに待っていたのを覚えています。
さて、ティーリング蒸留所も他の蒸留所と同様に、観光客にガイド付きの見学ツアーを提供しています。私は2015年と2018年の2回、参加したことがあるのですが、ここでは2015年に訪れたときのことを書いてみたいと思います。
その日は平日なのであまりお客さんはいないのではないかと思いましたが、私を含めて 11 人。アメリカ人が 3 人、ドイツ人が 4 人、ブラジル人が 2 人、アイルランド人が 1 人、そして私です。
ジェムソンやギネスのミュージアムと違って、ここは稼働している蒸留所ですので、中に入ると暑いし (30 度超え)、甘くて香ばしいかおりがします。
大規模な蒸留所ではありませんから、糖化、発酵、蒸留のプロセスがテニスコート 2 つ分ぐらいのスペースに収められています。
発酵用の装置。
蒸留のためのポットスチルは3つあります。それぞれにレベッカなど、女子の名前が付いています。(クーリー蒸留所ではポットスチルに男子の名前を付けていたそうです)
樽を少しだけ並べているスペースもありましたが、これはツアー客向けで、実際の貯蔵庫は他の場所にあるんだと思います。
ガイドツアーは 30 分ほどで終わり、その後、試飲会です。コースが 3 つあって、コースによって値段が違います。
14 ユーロ - スモール・バッチ (一番手頃な値段) とカクテル。
20 ユーロ - スモール・バッチ、シングル・グレイン、シングル・モルトの 3 種類。
30 ユーロ - シングル・モルト、リバイバル・シングル・モルト、21 年物シングル・モルトの 3 種類。
(上記は当時の価格と内容です。現在の価格等は下に記載します)
その後、ギフトショップへ。ウイスキーだけでなく、Tシャツ、本、ロゴ入りラグビー・ボールなどを購入できます。
ティーリング・ウイスキーの特徴は、アルコール度が 46% ということ。だいたいの他のウィスキーは 42% です。価格的には、大手のウイスキーよりもちょっと上の線を狙ってるようです。
余談になりますが、ガイドさんが説明しているときに、白髪の紳士が「やあやあ」という感じでカジュアルに割り込んできて、お客さんに話しかけはじめました。これが、ジョン・ティーリング氏でした。このときは9月で、ラグビーW杯で日本が南アフリカを破ったすぐ後でした。ジョンさんにどこから来たのと聞かれて「日本」と答えると、やっぱりラグビーの話になりました。
ジョンさんは「I live rugby」 (I love rugby の最上級形、たぶん) と言って、「あの試合はこれまでテレビで放映された試合の中で最高の試合だったね」と言っていました(「テレビで放映された試合の中で」と言ったのは、手放しで「最高の試合」というと逆に嘘くさいからではないかと考えています)。ラグビー好きな人なら、あの試合はほんとに心が動かされたでしょう。ありがとう、ラグビー日本代表。ジョンさんは今70代半ばに差し掛かろうとしていますが、68歳までラグビーをプレイしていたそうです。
現在のツアーの価格は以下のようになります。
15~17ユーロ - スモール・バッチとカクテル。
20~22ユーロ - スモール・バッチ、シングル・グレイン、シングル・モルトの 3 種類。
30 ユーロ - スモール・バッチ、シングル・モルト、ディスティラリー・エクスクルーシブ、シングル・ポット・スチルの 4 種類。
以下のWebサイトから予約できます。