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ノートルダム・ファイティング・アイリッシュ

アメリカにノートルダム大学という大学がありますね。アメリカン・フットボールが有名です。アメリカの大学って、スポーツ・チームにだいたい愛称がありますが、ノートルダム大学の愛称はファイティング・アイリッシュです。これは、アメフト部だけの愛称ではなくて、あらゆる種類の運動部のチームで使われる愛称だそうです。

 

ノートルダム大学は、その名前からも推察できるように、フランス人のカトリック神父によって開設された大学なのですが、なぜファイティング・アイリッシュというニックネームになったのか?

 

その由来には諸説あるようですが、最も有力な説は、第3代の大学学長を務めたウイリアム・コービー神父が、南北戦争時にアイリッシュ系兵士で構成される旅団の従軍聖職者だったから、というもの。

 

また、1919年には、イースター蜂起のリーダーの一人で、後にアイルランドの首相になるエイモン・デ・ヴァレラが、独立運動への支援を募るためにノートルダム大学を訪れています。デ・ヴァレラは学生達に熱狂的に迎えられ、「ファイティング・アイリッシュ」という愛称の人気がますます高まったそうです。

 

元々はマスコットにアイリッシュ・テリア (犬) が使われていました。しかし、1964年に大学があるデザイナーに50ドルを払ってレプラコーンの絵をかいてもらい、それをマスコットとして以来、この絵が大学のさまざまなグッズに描かれるようになりました。レプラコーンというのは、ご存じの方も多いと思いますが、アイルランドの民話に出てくるいたずら好きの妖精です。

 

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 さて、ご存じのとおり、現在のアメリカはポリコレの大嵐が吹き荒れておりまして、NFLワシントン・レッドスキンズや MBL のクリーブランド・インディアンズが、ネイティブ・アメリカンを不快にさせないような名称への変更を検討しているようです。

 

それで、ノートルダム大学のレプラコーンのマスコットにも、一部で批判の声があがっているみたいなんですね。

 

この件について、アイリッシュ・タイムズにもエッセイ風の記事が掲載されていました。

 

www.irishtimes.com

 

記事は、ノートルダム大学のキャンパスで 20 年ほど前に起きたある出来事から始まります。

 

ノートルダム大学に留学していたアイルランド人の大学院生が、アイルランドの国技ともいえるハーリングをグラウンドでプレイしはじめたそうです。選手が着ていたTシャツには、「世界最速のフィールド・ゲーム」と書いてありました。これは、ハーリングをやる人がよく言う言葉で、ボールの速度が一番速いのはハーリングですよ、ということです。

 

ところが、これを見たラクロスのコーチが快く思わなかったんですね。ラクロスの方が速いぞと。

 

それで、ハーリング同好会の人たちは、体育会の委員会みたいなところに呼び出されて、説明を求められました。そして、「最速」のスローガンを書いたTシャツを着るのをやめるか、「科学的には証明されていません」という注意書きを追加するか、どちらかにしろと言われました。

 

そこで、ダブリンの元カモギ (ハーリングの女子版) 選手で、同大学で分子生物学を学んでいたローナ・ホワイトさんが、「私たちが着ているTシャツのスローガンを不快に感じる方もいらっしゃるかもしれませんけどね、アメフト部がマスコットにしてるレプラコーン。あれを不快に感じるアイルランド人もいるかもしれませんねえ」と言ったところ、それ以降、文句は言われなくなったそうです。

 

大学側には、みんなが愛しているレプラコーンのマスコットが、ややこしい人にからまれて使えなくなったらやばいぞ、という気持ちがあったんでしょう。ホワイトさんのやり方もスレスレですけどね (笑)。

 

レプラコーンは、19世紀のアメリカでは、アイルランド人を馬鹿にした風刺画を描くときによく用いられたキャラクターだそうです。しかし、現在では、ノートルダム大学のマスコットはアイルランドアメリカ人の間では広く親しまれているようで、そこのところが、ワシントン・レッドスキンズのマスコットに対するネイティブ・アメリカンの感情とは大きく異なるところです。

 

しかし、アイルランドに住んでいるアイルランド人にとっては、アメリカ人がレプラコーンを持て囃すのを快く思わない人も多いみたい。

 

ただ、アイルランド人自身も観光資源としてレプラコーンをよく使うんですよ。レプラコーンが描かれている絵葉書はよくありますし、ダブリンにはレプラコーン博物館なるものがあります。これは、家具が大きめに作ってあって、自分がレプラコーンのような小人になった錯覚が味わえるとか、そんな感じらしいです。

 

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まあ、自分で言うのはいいけど、人に言われるのは嫌、というのはあるかもしれません。黒人の N ワードもそんな感じでしょうし。

 

この記事が掲載された翌日ぐらいには、ダブリンで生まれ育って、現在はノートルダム大学で学んでいる学生さんからの反論が、お便り欄に掲載されていました。

 

この方いわく、ノートルダム大学はアンチ・アイリッシュの偏見に凝り固まったような場所ではまったくない、と。レッドスキンズのマスコットと並べて語ることなどやめていただきたいそうです。この方自身にとっても、友人のアイルランド人留学生の間でも、レプラコーンのことが問題になったことは一度もないとのこと。現在、マスコットの中の人の一人は北アイルランドのデリー出身の学生で、彼の強いデリー・アクセントと相まって、皆に親しまれ、学校の誇りとなっているようです。

 

www.irishtimes.com

 

この方のお便りで知りましたが、ノートルダム大学には、アイルランド国外で最大のアイルランド語学科があるそうです。

 

2023/2/16追記

ファイティング・アイリッシュの由来に関する別の説について書きました。

tarafuku10.hatenablog.com

 

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