たらのコーヒー屋さん - 2 店舗目

たらのコーヒー屋さんです。

ピアース・ライオンズ蒸留所

ピアース・ライオンズ蒸留所 (Pearce Lyons Distillery) は2017年秋にオープンした比較的新しい蒸留所ですが、語るべき歴史とエピソードがいっぱいです。

 

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まず、設立者であるピアース・ライオンズ博士の実業家としてのサクセス・ストーリー。生化学博士の学位をアイルランドで取得した後、アメリカにわたり、家畜飼料のビジネスで大成功。その後、ケンタッキーのビール醸造のビジネスに乗り出し、こちらも軌道に乗せます。

 

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そして、かつてダブリンのウィスキー製造のメッカだったリバティーズという地区の古い教会が売りに出されると聞き、一生に一度のチャンスだということで迷わず購入。建物を蒸留所として使用することにします。元々、ライオンズ一族はウィスキー産業とは無縁ではなく、博士のおじいちゃんやひいおじいちゃんは、ジェムソンの蒸留所でクーパー(樽職人)として働いていたそうです。

 

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教会の塔がガラス張りになっているのがおわかりでしょうか。これは、1948年の落雷で崩壊したあと放置されていたものを、博士が購入後に修復したものだそうです。塔がなかったころの写真がこちら。

 

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さて、前置きが長くなりました。ツアーの紹介に参りましょう。

 

チケットを買って、ツアーが始まるのを待っている間、ロビーのモニターで蒸留所の簡単な説明を読んだり、ウィスキーのクイズをしたりして時間をつぶします。

 

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今日のツアーは、イギリスから来たご夫婦二組と私の5人。昨日、ラグビーのシックス・ネイションズでイングランドが番狂わせでアイルランドに勝ったので、私以外の4人はハッピー・ピープルです。ガイドは、アイルランド人30代男性のティアナンさん。

 

こういうツアーでは必ず最初に「どこから来たのー」とお客さんに聞くのですが、そこでティアナンさんとイングランドの人はさっそくラグビー話に少し花を咲かせていました。

 

見学ツアーの最初のコーナーはビデオ鑑賞です。この蒸留所を設立したピアース・ライオンズ博士が私たちに語り掛けてくれます。

 

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10分ほどのビデオが終わると、次は屋外に出て、教会や墓地の歴史についてのお話です。

 

この教会の名前はセント・ジェームズ教会というのですが、その歴史は12世紀にまで遡ります。最初はカトリックの教会だったのですが、政治的なもろもろの紛争の末、16世紀にプロテスタントの教会となりました。その後、教区民の減少により1960年代に教会の役目を終えています。

 

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実は私がここに来るのは今回で2回目なのですが、前回来たときは若い女性のガイドさんが、ボディースナッチャーの話をしてくれました。ボディースナッチャーとは死体泥棒です。新鮮な死体を夜中に盗み出して、解剖用の死体を必要としている医療関係者に売るのです。捕まれば重罪ですから、リスクの高い仕事でした。

 

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今回のティアナンさんは、この墓地に眠る高級娼婦の話をしてくれました。彼女は割と裕福な家の出なのですが、最初の結婚に失敗し、処女ではないカソリックの女性が生きていくにはほかにやりようがなかったとか。彼女のクライアントは、当時の政治家とか法律家とか実業家とか錚々たる面々だったのですが、彼女が晩年、回顧録を書くにあたって、実名を出してほしくなければお金を渡しなさいと、名士たちを脅したとか。

 

プロテスタントの教会になったあとも、墓地を持つことが許されていなかったカトリック教徒は、この教会に埋葬されたのです。そんなに広くない墓地ですが、約800年の間に約10万人が埋葬されました。博士の親族も何人かここに眠っているそうです。

 

さて、いよいよ教会の建物に入ります。この中にウィスキーの製造工程、ティスティング用のバー、お土産ストアがすべて入っています。

 

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製造工程の説明を聞いたり、製造途中のアルコールや麦芽の匂いを嗅いだりなど、蒸留所見学ではおなじみの段取りはありますが、ここでの見どころは新しく作られたステンドグラスです。

 

4枚あるのですが、そのうち3枚がウィスキーの製造工程に関するもの。

 

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そして、もう1枚はカミーノ・デ・サンティアゴにまつわるものです。ご存じのように、これはサンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼路なわけですが、このスペインの街には聖ヤコブ (スペイン語でサンティアゴ、英語でセント・ジェームズ)の遺骸があるとされています。巡礼に出かける人々は、セント・ジェームズにちなんだ教会に集まってから出発することが多かったので、アイルランドの巡礼者はダブリンのこの教会から旅立っていた可能性が高いのだそうです。

 

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ピアース・ライオンズ蒸留所の見学料は20ユーロ、25ユーロ、30ユーロの3つあって、その違いはテイスティングできるウィスキーの数です。私は20ユーロでしたので3種類でしたが、イギリス人夫婦の1組は30ユーロを選択したらしく、ウィスキー4種類とジンを味わっていました。

 

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ウィスキーの種類は、緑ラベルのOriginal (ブレンド)、赤ラベルのDistiller’s Choice (同)、金色ラベルのCooper’s Select (同)、黒ラベルの Founder’s Choice (シングルモルト)があります。アイルランドでの700ccボトルのお値段は42ユーロから70ユーロぐらい。アイルランドは酒税が高いので、ウィスキーは基本的に日本の方が安いです。(下の写真はミニボトルです)
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ティスティングのところでガイドさんと話が弾んだこともあって、所要時間は1時間15分ほどでした。

 

さて、実業家としてアメリカンドリームを成し遂げ、母国に戻ってきて蒸留所を開くという夢をかなえたピアース・ライオンズ博士でしたが、蒸留所オープンから半年後の2018年春、73歳でお亡くなりになりました。かなった夢を楽しむ時間が短かったのは残念だったかもしれませんが、他の人がうらやむような充実した人生だったのではないかと思います。