アイリッシュ・タイムズ紙に「Irishman's Diary」っていうコラムがあって、複数のコラムニストが交替で執筆してるんだけど、その中の Frank McNally という人が「100 の○○で綴るアイルランドの歴史」っていう連続モノを書いている。○○に入るのは最初が「質問」、2 回目が「言い訳」、で、3 月半ばの 3 回目がこの「罵り言葉」だった。罵り言葉を 100 個並べるだけでアイルランドの歴史を一望してみようという試みです。
読者も面白がって自分の知ってるローカルな罵り言葉を投書し、編集者も調子にのって4 月の半ばぐらいまで毎日、罵り言葉が読者投稿欄に掲載されていました。
汚い言葉を並べるだけでアイルランド人の気質がにじみ出ていると私も思ったので、分かる限り調べてみました。間違っているところ、これはこういう意味だぞ、というのがありましたら、是非ご指摘ください。
それでは始めます。
1. May a cat eat you, and may the devil eat the cat.
アイルランド語の呪いの言葉を英語に訳したもの。アイルランド語では「Go n-ithe an cat thú is go n-ithe an diabhal an cat」猫があなたを食べて、その猫を悪魔が食べますように。「手ー突っ込んで奥歯ガタガタ言わしたろか」系。
2. Short life to you on this side and hell on the other!
3. The curse of Cromwell upon you!
4. The Irish are a fair people. They never speak well of one another.
5. The man recovered of the bite. The dog it was that died.
18世紀アイルランドの詩人、オリバー・ゴールドスミスの詩の一節。「かまれた男は回復したが、噛んだ犬が死んだ」
6. He gave what little wealth he had
to build a house for fools and mad.
And shew’d by one satyric touch.
No nation wanted it so much.
to build a house for fools and mad.
And shew’d by one satyric touch.
No nation wanted it so much.
ジョナサン・スイフトが遺贈したお金でダブリンに精神病院が建てられたんだけど (今もある)、自分の死を予感したスイフトが詠んだ詩の一節。「彼はばかときちがいの家を建てるためになけなしの金を渡した。(3 行目意味わかりません)。これほどまでにこれを必要とした民はいない」
ジョナサン・スイフトの有名な引用句らしいんだけど、ちょっと詳しい意味はわかりません。
8. Being born in a stable does not make a man a horse.
ウェリントン公爵「馬小屋で生まれたからと言って、人が馬になるわけではない」。自分がアイルランド人と呼ばれたことに対する反論。ただし、ダニエル・オコネルがウェリントン公爵について言った言葉だという説あり。
9. Amadán.
アイルランド語で「バカ」
10. Ludramawn.
11. Sleeveen.
アイルランド語で「ずるい田舎者」
12. Shoneen.
13. Póg Mo Thóin.
14. They took the soup.
15. He took the Queen’s shilling.
イギリスの軍隊に入ること。たぶん。
16. You have disgraced yourselves again.
ジョン・ミリントン・シングの戯曲『西の国の伊達男』が始めて上演されたときに、道徳的に退廃してるっていうことで暴動が起こった。それから何年も経って、ショーン・オケイシーが『鋤と星』を発表したときにもまた暴動が起こったのだけど、その時にWBイェイツが暴徒に向かって言った言葉。「またお前らか。天才が出てくるたびに暴動を起こして祝福しないといかんのか」。
17. Remember the Duke of Gloucester the dirty oul’ imposter He took his mott and lost her Up the Furry Glen.
18. Ireland is the old sow that eats her farrow.
ジェイムズ・ジョイスの「若き芸術家の肖像」の一節。「アイルランドは自分の子ブタを食べる年取った雌ブタだ」。アイルランドの独立運動の中心的人物だったチャールズ・パーネルの不倫が問題になったとき (長い間、一緒に暮らしていたし子供もいたけど、相手の女性が正式に離婚していなかった)、教会やアイルランド国民がパーネルに背を向けたことを非難して主人公が言った言葉。持続不可能な終身雇用を維持するために若い世代に雇用の調節弁の役割を押し付けてる日本にも言えるかも。
19. Get up ye bowsie, and clean out your cell.
これはまったくわからない。
20. You scumbag, you maggot, you cheap lousy faggot.
21. The unspeakable in pursuit of the uneatable (Oscar Wilde on fox-hunters).
22. He hadn’t a single redeeming vice.
オスカー・ワイルド。普通は「He hadn’t a single redeeming virtue」で「欠点を補う美徳がない」という風に使うけど、そこをワイルドが偽悪的に「美徳を補う欠点もない」とした。たぶん。
23. If you laid all the economists in the world end to end, they still wouldn’t reach a conclusion.
ジョージ・バーナード・ショー。「経済学者全員を端から端まで並べても、彼らが結論を出すことはないだろう」。文脈はわからない。
24. The cream of Ireland: rich and thick (Samuel Beckett on Trinity College).
25. Bog-trotter.
かつてはアイルランド人に対する物凄い蔑称。今は軽く使われることもある。
26. Biffo.
オファリー県出身者に対する蔑称。「Big ignorant Fucker from Offaly」の頭語。代表的な Biffo はブライアン・カウエン前首相。
カウエン前首相
27. Baluba.
28. Blueshirt.
1930 年代アイルランドのファシスト政党 National Guard のニックネーム。転じてフィネゲール党 (員) の蔑称。National Guard の解党後、多くの党員がフィネゲールに流れたため。
National Guard の旗
29. Ye chancer, ye!
うーん、元ネタわからないんだけど、chancer は「はったり屋」、「調子いいこと言って取り入るのがうまい人」
30. Fur coat and no knickers.
表面は豪華だけど中身はない。
31. Pure mule.
「すごいつまらないこと」または「すごい楽しいこと」。文脈による。
32. Plastic Paddy.
33. A face that would turn milk. sour
「ミルクもすっぱくなる顔」→「醜い顔」
34. A face only a mother could love.
これは割とよく聞く。「母親だけが愛せる顔」→「醜い顔」
35. The head on him, and the price of cabbage.
「あいつの格好、見てみろよ。どうしちゃったの」みたいなときに使うらしい。元ネタわからず。
36. He wouldn’t get a hug off a bear.
「熊にもハグしてもらえない」。モテない人。
37. The tide wouldn’t take her out
誰もデートに誘ってくれない魅力のない人。なんで「Tide」か不明。.
38. Persil wouldn’t shift her.
これもたぶん 37 と同じ意味だと思うんだけど不明。Persilは洗剤のブランド。
39. He’s an eejit.
40. He’s a buck-eejit.
すごい eejit
41. He’s the two ends of an eejit
ものすごい eejit. (たぶん)
42. He’s thick out.
ばか
43. Gurrier.
44. Langer.
コークの方言。元の意味は男性器。転じて「いけすかない奴」。たぶん男の人だけに使う。ドイツ人ゴルファーのベルンハルト・ランガーは関係なし。
ベルンハルト・ランガー