昨年の11月でしたか、ロンドン・ブリッジでテロリストがナイフを持って暴れ、2人が死亡した事件がありました。
そのとき、一般市民がイッカクの牙や消火器をもって犯人に立ち向かい、被害が拡大するのを防いだのでした。
イッカクの牙を武器にしたというのが強い印象を与えましたが、当初、誰がそれを持ち出したのかについては情報が錯綜していました。最初は海鮮料理店で働いていたポーランド人シェフのルーカスさんという話になっていましたが、この方は建物の中で犯人と格闘し、5か所も刺されたので、犯人取り押さえの現場までは行けなかったようです。
実はイッカクの牙は2本あり、1本は犯人と一緒に犯罪者更生プログラムに出席していた殺人で服役中のスティーブ・ギャラント氏が持ち、もう1本は同じくプログラムの現場にいた法務省役人のダリン・フロスト氏が持ちました。ギャラント氏が持った牙はすぐ折れてしまったので、彼は椅子を持って犯人と戦ったそうです。
上の写真で犯人に素手で掴みかかっているのがおそらくギャラント氏、イッカクの牙を持っているのがフロスト氏、消火器を持っているのは傷害致死で服役し、仮釈放中だったジョン・クリリー氏です。
なんでこの話が今また記事になっているかと言いますと、ギャラント氏が女王陛下から恩赦を受けることが決定したからです。彼が2005年に受けた元々の判決は、終身刑で最低17年服役すること(仮釈放は2022年まで認めない)というものでした。恩赦により、彼の刑期は10か月短くなり、来年6月に仮釈放を申請できるようになります。
この事件で殺された2人のうちの1人は、更生プログラムのコーディネーターだったジャック・メリット氏。25歳の若さですが、親身になって服役囚の面倒を見ていたようで、彼が刺されたのを見たことが、ギャラント氏やクリリー氏の勇気に火をつけたのかもしれません。
ギャラント氏は4人ほどの集団で、ある消防士を撲殺したことで殺人犯となったのですが、遺族の方も「複雑な気持ちはあるが、ロンドン・ブリッジで起きたことは、人は変わることができるという現実を示すものだ」と、恩赦を支持しているようです。
品のいいガーディアン紙にはここまでしか書かれておらず、全体を通してポジティブなヴァイブにあふれています。遺族の感情なども考慮してのことでしょう。しかし、実はこのストーリーはもう少し深堀りすることができるのです。
ギャラント氏に殺された消防士は、64歳の売春婦を殺した疑いで起訴されたのですが、殺人ではなく傷害で有罪となりました。売春婦の顔面に大けがを負わせ、そのまま放置したため彼女は死んでしまったのですが、死んだことには責任がないとされたわけです。
ギャラント氏らのグループは、その復讐のために消防士を襲い、ハンマーで殴って殺しました。顔の骨がすべて折れていたそうです。また、売春婦は消防士を客として相手していたわけではなく、消防士が彼の父親を殴っているところをたまたま目撃して止めに入ったところ、暴力を振るわれたということのようです。
女王が恩赦を与えるのは非常に珍しくて、25年ぶりだそうです。25年前に恩赦を受けたのは、IRAの幹部でアイルランド政府に雇われた密告者だったショーン・オキャラハンでした。