たらのコーヒー屋さん - 2 店舗目

たらのコーヒー屋さんです。

ディザスター・ガール

イギリスに「ザ・スペクテイター (The Spectator)」という雑誌があります。創刊は1828年という老舗で、過去には現英国首相のボリス・ジョンソンも編集者を務めていたという保守誌です。

この雑誌の姉妹版として、米国でも Spectator US というウェブマガジンが去年スタートしました。

spectator.us

US版には、架空の左翼活動家キャラが、いかにも左翼が言いそうな現実離れした極端なことを書くという設定のパロディー記事も掲載されています。その架空のキャラというのが、こちらのゴッドフリー・エルフィック (Godfrey Elfwick) さん (写真は人工的に作り上げたもの)。いやあ、思い詰めてますね。

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この US 版が最近作った新しい架空のキャラがあって、それはマチルダ・オロフソン (Matilda Olofsson) という少女です。

spectator.us

苗字がスウェーデン系であることに気付かれた方にはもうお分かりかと思いますが、この少女は10代の環境活動家として売り出し中のグレタ・トゥーンベリの宿敵キャラという設定なんですね。

マチルダ・オロフソン役の写真の少女。こちらは人工合成の写真ではありません。ゾーイ・ロス (Zoe Roth) さんという実在の少女です。というか、どこかで見たことあるぞ、という方も多いのではないのでしょうか。

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そうです。燃え盛る家。消火活動を行う消防士。それを背景にカメラの方を振り返って不吉に笑う少女。インターネットのミームとして様々な改変版が作成され、大々的に拡散された写真の少女なのです。

www.thesun.co.uk

2016 年のサン紙の記事によると、この写真は 2004 年、ゾーイさんが 4 歳の時の写真。近所でたまたま火事があったので、彼女のお父さんは買ったばかりのデジタルカメラを持って、子供たちと一緒に野次馬に駆けつけました。既に消防士が到着しており、鎮火はしていないものの、危険な状態は脱していました。そこで、お父さんは子供を入れ込んだ燃える家の写真を何枚か撮りました。

それから 3 年ほどたって、お父さんは例の写真をある写真共有サイトに投稿します。またたく間に他のユーザーからコメントが集まり始めます。のちに「ディザスター・ガール」として有名になる少女がここに誕生しました。お父さんにはかわいい子供のスナップ写真にすぎなかったものが、切り取られた一瞬だけを見た他の人には、サイコホラー映画のワンシーンのように見えたのでしょう。

その後、お父さんは写真コンテストに応募し、この写真は賞を取って、雑誌にも掲載されました。

インターネットで有名になったことで、お父さんのもとには写真の権利を買い取りたいというオファーがいくつも届いたそうですが、お父さんはそれをすべて断ります。かわいい娘さんのイメージが何に使われるかわからないわけですから、それは当然の判断でしょう。

当のゾーイさんは、自分の写真がインターネットで出回っていることについてどう思っているかというと、特に気にしてはいないどころか、楽しんでさえいるようです。

ただ、このサン紙の記事が出た当時のゾーイさんはリベラル寄りだったようで、自分の写真が南軍旗擁護のテキストと共に使われたときはゾッとしたそうです。

今回、スペクテーターUS は、ちゃんとゾーイさんの許可を取って (たぶんお金を支払って)写真を使用しています。3 年前の記事では、ゾーイさんは大学の学費の足しになるなら、この写真をお金に代えることも考えているといっていたので、それが実現したのかもしれません。リベラルではなく保守系言論のプラットフォームですが、伝統のあるちゃんとした出版物なので、楽しく使ってくれるならいいですよ、という寛大な気持ちだったのでしょうか。

いや、それとも、トランプ大統領が当選して以来、リベラルの欺瞞に嫌気がさして、この3年間で保守派に転向したのかもしれません。

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