たらのコーヒー屋さん - 2 店舗目

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1875年のダブリンの大火事の話

 
 

1875年にダブリンのリバティーズ地区で大火事が発生しました。当時のダブリンはウイスキーの世界ナンバー1の生産地。今のティーリング蒸留所あたりにあった、マローンズというウイスキー等の保税倉庫から出火します。

 

この大火事についてよく語られるエピソードというのは2つあって、1つは延焼を防ぐために肥え (つまり、牛馬の糞) などを使って流れ出るウイスキーを堰き止めたという点。水を掛けると発火したウイスキーの流れに勢いをつけることになってしまうので、独創性にあふれる鎮火方法がとられたわけです。

 

もう1つは、この火事に関連して死亡したのは13人とされていますが、誰も火事の直接の被害で死んだ人はいないということです。火傷や煙で死んだ人もいなければ、倒壊する建物の下敷きになって死んだ人もいないのです。

 

なんで死んだかというとアルコール中毒です。火事の見物に集まった野次馬たちが、帽子や靴で流れているウイスキーを掬って、しこたま飲んでしまったんですね。

 

私は最近、ティーリング蒸留所のギフトショップでこの大火に関する本を買いました。100ページに満たないソフトカバーですから、小冊子といてもいいかもしれません。「The Create Liberties Whiskey Fire」という本です。

 

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この本のおもしろいところは、著者のラス・ファロン (Las Fallon) さんが、熱心なアマチュア歴史家であると同時に、元消防士だということです。30年にわたってダブリンの消防署に務めていたそうです。ですので、火を消す側からの視点で書かれているのですね。

 

牛馬の糞を使って溶岩のように流れるウイスキーを堰き止めるというアイデアを出したのは、当時のダブリンの消防隊長だったジェームズ・イングラム氏。

 

イングラム氏は1850年代にアメリカに移住し、ニューヨークで印刷関連の仕事をしながら、ボランティアで消防隊に参加していました。そこで培った経験を、ダブリンに戻ってきて生かしたわけです。

 

イングラム隊長は1881年結核でこの世を去りますが、ダブリン市内には彼の功績を称える記念碑などなく、彼の墓には墓石もないそうです。本の著者のファロン氏は、そのことを嘆いておられます。

 

出火元となったマローンズ保税倉庫のあった場所は、コーク・ストリート、アーディー・ストリート、チェンバー・ストリート、オーモンド・ストリートに囲まれた一画です。ここは、4~5年前まで柵に囲われた空き地だったのですが、今では市民が憩える公園に生まれ変わっています。

 

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ちなみにファロンさんの歴史への熱意は息子さんのドナルさんにも受け継がれたらしく、ドナルさんはダブリンの歴史や文化について語る comeheretome.com というウェブサイトを主宰しています。

 

comeheretome.com

 

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