たらのコーヒー屋さん - 2 店舗目

たらのコーヒー屋さんです。

あいまい力

アイルランドは当然、日本と文化が違います。特に最初の数年間は、「なんでそんなん?」と思うようなことが多くありましたが、逆に「それもありなんか」と目から鱗が削られることもありました。

 

いくつか例をあげますと、まず「人に助けを求めることができるという能力」、または「人に助けを求められないという無能力」。これは、確か自殺を防ぐにはどうするか、みたいな新聞記事で読んだのだと思います。それまでは、自分で問題を解決しようと努力することが能力だと思っていたのですが、逆に助けを求めることが能力なんやと。こんなことを思い出してるのは、友人の書いたブログにそんなような話が買いてあったからです。確かに、助けを求められないのは見栄がじゃましてる部分も相当あります。

 

あとは、リスクテイカー。もう15年くらい前になると思うのですが、アルバート・レイノルズというアイルランドの首相が、お金関係のスキャンダルで辞任に追い込まれたのですね。レイノルズ首相の辞任に際しての演説をテレビで見てたんですが、「私はリスクテイカー (リスクを取る人)」なんだと誇らしげに語っていたのです。私のうちは両親が堅い職業についていたので特別そうなのかもしれませんが、リスクは避けるものとばかり思っていたので、リスクテイカーという言葉がポジティブな文脈で語られているのに驚きました。いまはさすがに、リスクは計算して取るものというのはわかります。少なくとも頭では。

 

最後はですね、「あいまいな状況の中で仕事を進めていく能力」。これはどこかの会社が人材を募集していて、だれかいい人いない? と私に問い合わせてきたのです。で、こんな人を探しています、みたいな職務説明書も添付されて送られてきたのですが、その中に「あいまいな状況の中で仕事を進める能力のある人」というのがあったのです。私はどっちかというときっちり物事を詰めときたいタイプであり、きっちり物事を詰めるのが美徳だと信じていたので、これはびっくりしました。ああ、それも能力なんやと。

 

たしかに、私も含め、こっちで働いている日本人で、そういうことでカリカリしている人は多いです。職場の人があまりにいいかげんだと。しかし、それは「あいまいな状況の中で仕事を進める能力の低い人」ということもできるわけです。例えばそれを「あいまい力」と名付けてもいいかもしれません。

 

私はこの「あいまい力」というのが非常に低いです。ポテトチップスの袋をあけると一気に最後まで食べてしまいます。途中でやめて仕舞っておくというあいまいな状態がだめなのです。また、テレビの連続ドラマも見る気がしません。結末がわからない状態で一週間待つのがだめなのです。しかし、「あいまい力」という言葉を得たおかげで、ある程度、あいまいな状態への許容度も高くなりました。

 

しかしですね、その能力の必要性を頭に刻み込むにあたって、「あいまい力」などといういかにもキャッチーな造語を作る必要があったのか。「あいまいな状況の中で仕事を進める能力」という中途半端に覚えにくいフレーズのまま宙ぶらりんにしといてもいいじゃないか。でも、もうちょっとニートなフレーズで収まってくれた方が気持ちいい。その辺が、私の不徳の致すところです。

 

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(写真は、アルバート・レイノルズ元首相)