アイルランドのレオ・バラッカー首相のことが日本でも報道されていますね。政治家になる前は医師として働いていたバラッカー首相ですが、医療現場での人出不足が深刻化する中、自ら志願して、週に1回ですが、一般市民からの電話診療相談チームに加わるとのこと。
ま、国のトップが現場に出るのはどうなのよ。もっと他にすることあるでしょ、という批判があるのは分かりますが、今回は、パンデミックという非常事態、そして医療スタッフが足りないのはこれは現実のことですから、今回の決断は大いに評価されるのではないでしょうか。英語でも、「Lead by Example」(自ら手本を示しながら人をひっぱる)と言う言葉もありますし。ツイッターなんかを見ていますと、日本でのウケも非常に良いようです。
バラッカー首相は1979年生まれの41歳。医学生だった20歳のときに地方議員となり、2007年の総選挙で下院議員に当選します。2014年から厚生大臣と社会保護大臣を歴任した後、2017年に所属する政権与党のフィネ・ゲール党党首に選出され、38歳で首相に就任します。アイルランド首相としては史上最年少です。
首相としての最初の仕事は、中絶を合法化するために憲法改正の住民投票を行うと発表したことでしょうか。それまで、アイルランドは母体に生命の危険がない限り中絶は認められなかったのです。
それから、もう1つの功績は、ブレグジットの交渉ですかね。今、アイルランドと北アイルランドの間は自由に往来できるわけですが、イギリスがEUを抜けると、ここにチェックポイントができる可能性がある。そうなると経済活動が大きく阻害されるので、アイルランドとしてはそれは避けたいわけです。イギリスとアイルランド(そしてもちろんEU)との長い交渉の結果、北アイルランドをある種の経済特区とすることで、2019年10月に合意に至ったわけです。
で、このときのフィネ・ゲール政権というのは、議会の過半数が取れてなくて、無所属議員連合の助けを借りて組閣していたんですが、無所属議員連合から不信任動議が出て、2020年1月に議会を解散。2月に総選挙が行われることとなりました。まあ、ブレグジットの件が片付くまでは、交渉の継続性という観点から解散は避けたい人が多かったですから。
そして、総選挙の結果、フィネ・ゲールは議席を12減らして35議席しか獲得できず。第3党になりました。普通なら次の政権与党の党首にすぐに首相の座を譲るところですが、2か月たってもまだ組閣できないので首相を続けているわけです。組閣できない理由は、端的に言えば、3つの党がほぼ同数の三つ巴状態だからです。詳しくは、以前書きましたのでこちらの記事をご参照ください。
その後、新型コロナウイルスのパンデミックが発生したわけですが、バラッカー首相の対応はおおむね好意的に受け止められているので、総選挙が2月じゃなくて4月に予定されていたら(4月には選挙は無理なので延期されたでしょうが)、結果はまた違ったのではないかと思います。
私、ついこの間、バラッカー首相を実際に見かけたのですよ。外出禁止令が強化される直前でしたが、フェニックス公園に朝、散歩に行ったところ、バラッカー首相がジョギングしていました。男性が1人一緒に走ってたけど、あれはたぶんパートナー。SPじゃなかったと思う。バラッカーさんは、背も高くて思ったよりガタイがよかったです。
パートナーって書いたのは、バラッカー首相はゲイだからです。で、パートナーの男性はやはり医師の方で、たまたまウチの近所の病院に勤めています。それから、お父さんがインドの方 (やはり医者だった)。
ゲイであることや、インド系であることがメディアではよく言われたりしますが、バラッカー首相自身は、「(ゲイであること)が、私を定義するのではない。私はインド人のハーフの政治家でもないし、医者の政治家でもないし、ゲイの政治家でもない。それは、私の一部に過ぎないのであって、私を定義するのではない。私の人格の一部に過ぎないと思う」と言っています。
