たらのコーヒー屋さん - 2 店舗目

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道端で楽器を弾くこと (1/2) ~バスカーの話

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昨日、ストリート・ミュージシャンとか大道芸人のことを書きましたが、実は私もアイルランドに来た当初、街で楽器を弾いていたことがあるのです。1993 年のことです。その後、日本人の友人がダブリンの音楽事情を伝えるみたいなミニコミ誌を始めて、彼女に頼まれてそのときの様子を文章にしたことがあります。それが 12 年くらい前でしょうか。今読み返すとちょっと恥ずかしいですが (演奏したことも、文章自体も)、いい思い出です (演奏したことも、文章を書いたこと自体も)。ブログなんかも始めたので、2 回に分けて再録させてください。長くなりますので、つまらなかったら飛ばしてくださいね。

 

写真は昨日、グラフトン・ストリート界隈で写真を撮らせてもらったミュージシャンたちです。

 

****ここからです****
実録、ダブリンバスキング事情

 

道端で楽器を弾いて小銭をもらう人のことをバスカー (Busker) といって、その行為自体はバスキングと呼ぶ。日本語だと大道芸人だ。この間テレビに出ていた警察の人の話によると、法律的にはバスカーはBeggar (物乞い) と同じカテゴリーに含まれるのだそうで、原則的には法律違反なのだけれど、バスカーは街を華やいだ雰囲気にしてくれるので取り締まりはしないのだそうだ。そんなこといったって、Beggarの人たちを取り締まったりもしないじゃないか。

 

100 万人都市ダブリンにはメインストリートと呼べるのは 2 本ぐらいしかないけど、そのうちの 1 本、グラフトンストリートというのがバスカーの聖地といえる。グラフトンストリートは高円寺PAL商店街をちょっとお洒落にしたイメージを想像してください。ホットハウスフラワーズがここで演ってて U2 のメンバーに発掘されたというまことしやかな伝説をなんかの雑誌で読んだのが、たぶん僕にバスキングを決意させたきっかけである。

 

バスキングをやりにアイルランドへ行くと決めたのはいいけど、まともに楽器を演奏できないのを忘れていた。ギターとベースを弾いたことはあるけど、就職以来 6 年ぐらい触っていない。なんか簡単にできる楽器はないかと探していたところ、ありました、大正琴。こいつはお年を召した方々がアルツハイマー症防止のために始めるような楽器で (指の運動になるでしょ?) たぶん奥はすっごく深いと思うけど、とっかかりは簡単だ。それに音色がとってもジャポネスク。吉祥寺の小さい楽器屋で買ったんだけど、サンバーストのカラーリングに名古屋城のイラスト付き。その見目麗しさに惚れました。

 

さて、この大正琴を黒の専用ソフトケースに詰め、大韓航空とエアリンガスを乗り継いで一路ダブリンへ。さっそくその足でグラフトンストリートへと思ったが、そうは問屋がおろさない。いくらお年寄り向けの楽器といっても一回も練習しないで人前で弾けるわけないでしょ。とにかく日本の友達が作った曲を 2 曲だけマスターして (2 ヵ月くらいかかった) いよいよ本番である。やっぱ、ちょっと恥ずかしかったです。幼稚園のときのオルガンの発表会のとき以上に緊張した。英語学校で一緒のイタリア人の友だちがついてきてくれたんだけど、こいつが根の暗いイタリア人で、励ましにも何にもならないんだな。バネッサ、おまえのことだ。

 

おもむろに地べたに座り込み、ソフトケースを前に置く (投げ銭を入れてもらうためね)。意を決してピックで弦をつま弾いたところ、ああ大誤算。大正琴は音が小さい、雑踏にかき消されて自分の耳にも音がほとんど聞こえない。結局この日は数十ペンスを稼いだだけに終わりました。
反省の色もなく、とにかく他にやることもなかったので、数日後再びグラフトンストリートへ。しょぼい音を鳴らしていると、ギターを抱えたおやじバスカーが近寄ってくるではないか。しまった、ここはおやじの縄張りか、ショバ代はらわにゃいかんのか、とビビる僕の心を知ってか知らずか、おやじは僕の震える指先をしばらく見つめていたが、おもむろに顔を近づけ、僕に話しかけた。
「坊主、お前の楽器は何という楽器だ?」
「Japanese Harp だ!!!」
「その楽器はユニークだな。だが、いかんせん音が小さい、そこの楽器屋に行ってピックアップ (マイク) とミニアンプを買ってこい。その楽器ならすぐに元をとれるぜ。」