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トランスジェンダリズムをめぐる紛争

 

 

題名に使ったトランスジェンダリズムは、一言で言えば、身体的な特徴が男性か女性かにかかわらず、自分の性別は自分で決定できるという主張です。

 

アイルランドでここ数日話題になっているのが、ある学校の先生がトランスジェンダーの生徒をTheyという代名詞で呼ぶことを拒み、学校や裁判所ともめている話です。トランスジェンダーの人は自分のことを指すのに通常のSheやHeではなく、別の代名詞を使ってほしいと指定することがあります。この生徒の場合はTheyだったようです。

 

この先生はウェストミース県のウィルソン・ホスピタル・スクールで教鞭をとるイーノック・バーク氏。今年6月の学校創立260周年のお祝いの席において、Theyの使用を要請された件で校長先生に執拗に詰め寄るなどの不適切な行為があったことから停職処分を受けました。ただし、正式な処分が出るまで有給で休みという処分になっていました。

 

ところが、バーク先生は学校に出勤し、誰もいない教室で1人で過ごすなどしたため、学校側はやむを得ず("Regrettably" と記事には出ています)裁判所に訴え、バーク先生が学校に来ることを禁じる命令を出してもらいました。それでもバーク先生が命令を破って学校に来るため、法廷侮辱罪ということで今日(水曜日)、刑務所に収監されることになりました。

 

www.irishtimes.com

 

バーク先生はキリスト教の強い信仰心を持つ人で、トランスジェンダリズムを受け入れることは自分の良心に反すると考えているようです。そもそも、このバーク先生の一家はアイルランドでは名が知られていて、たとえば3年ほど前には姉のアミさんが弁護士事務所を解雇された件で不当解雇だと裁判(継続中)を起こし、事務所前で一家でピケを張るなど、たびたび新聞紙面をにぎわせてきました。

 

バーク家はメーヨー県のプロテスタント一家で、ご夫婦とイーノックさんら10人の子供達から構成されます。教師の資格を持つ奥さんが一家を仕切っているらしく、子供全員をホームスクーリングで育てました。学校の成績は全員優秀。電気技師のお父さんは物静かで気さくな人との評判です。ウイキペディアには「Burke Family」という項目まであります。個人的にはウイキペディアに載せるほどの特筆性があるのかどうかは疑問ですが。

 

www.independent.ie

 

アイルランドの二大全国紙であるアイリッシュ・タイムズとアイリッシュ・インデペンデントは、共に記事の中立性を保つことに細心の注意を払っている模様です。トランスジェンダー生徒へのリスペクトはもちろんですが、バーク先生の言動が差別的だという印象を与えないように配慮しているようです。トランスジェンダリズムの話はアメリカを見ればわかるように激しい論争になりがちなので、新聞もそのあたりにたいへん気を遣っているような気がします。

 

今日の法廷においてバーク先生は、「キリスト教徒として刑務所に留まるか、外に出て異教徒のトランスジェンダー受容者として生きるかどちらかだ」と発言。今後100年刑務所にいなければならないとしても、自分の信念を曲げたり、裁判所の命令に同意することはないと、強い気持ちを表明しています。

 

ある信念を信じる自由もあると同時に、信じないという自由もあります。トランスジェンダリズムを信じない人に、トランスジェンダリズム独特の語法であるTheyという代名詞の使用を強制できるかどうかということが論点なのではないかと思います。記事によれば、学校側がTheyを使うように「request」したとのこと。この「request」のニュアンスが要望なのか、それとも要求的なものだったのかが気になります。記事から判断するに、学校側はそれほど頭ごなしにTheyの使用を押し付けたようではないように見えますが、バーク先生の信念は固いようです。

 

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