アイルランド生まれで、今では国際的に親しまれているブランドを特集した記事がアイリッシュ・タイムズに載っていました。
私もタイトルで「世界にはなたく」なんていうポジティブな言葉を使いましたけど、いいことばかりではないようです。多国籍企業に買収されて、製造拠点がアイルランドの国外に移ってしまうなんていうことがあるわけですから。
それが最近起きたのが、皮膚かぶれ用のクリーム、Sudocrem です。読み方は正式にはスードクレムですが、アイルランドでは一般的にスードクリームのように発音されるそうです (アクセントは共に最後の音節)。
3月の末にマドンナがある自撮り写真をツイッターにアップしたのですが、その背景にスードクリームが写っていたということでアイルランドでは大騒ぎになりました。60歳を超えても肌の衰えを感じさせないマドンナが愛用しているわけですから、その効用にお墨付きが与えられたようなものです。
ところがこの国民的ブランドがアイルランドの工場を閉じると今月初めに発表したのです。これにより100人が仕事を失うことになります。新しい製造拠点はブルガリアだそうです。
スードクリームはダブリンのカブラ (Cabra) で薬局を営んでいたトーマス・スミスさんが1931年に開発したもの。当時の薬局店主は薬を売るだけでなく、発明家でもあったんですね。当初は主におむつかぶれに効くクリームとして販売されました。
最初は Smith’s Cream という名前だったのですが、これではあまりに身も蓋もないということで Soothing Cream という名前になりました。ところが、ダブリンの人は th の発音が d になるということで、「スードクリーム」のように発音していました。じゃあもう綴りの方を読み方に合わせようということで、最終的に Sudocrem になったのだそうです。
1970年代にイギリスに進出し、そこでも短期間でおむつかぶれ用クリームのトップブランドとなります。現在は40か国以上で年間3500万本以上が売れているようです。2015年にアラーガンという大手製薬会社に買収されたあと、2016年からテヴァ・ファーマスーティカルというイスラエルの会社がスードクリームのオーナーとなっています。
テヴァはアイルランドにもいくつか工場があるのですが、特にアイルランドに思い入れがあるわけでもないので、スードクリームの事業が国外に移るのは時間の問題と思われていたようです。
マドンナの写真が話題になったときに書かれたこちらの記事には、トーマスの息子であるブレンダン・スミスさんのマーケティング手法にも触れられています。
1960年代、ブレンダンさんは地方新聞の「おめでた欄」に目を通し、新しくお母さんになった人たちにサンプルを送っていたそうです。これがスードクリームが子育ての代名詞になった理由です。また、苦情の手紙が来ると、自らが話を聞きにそのご家庭まで出向いていったそうです。
イギリスの芸能人でもこのクリームのファンは多くて、元ガールズ・アラウド (ガールバンド) のキンバリー・ウォルシュとシェリル・コール、司会者のアマンダ・ホールデン、女優のデイジー・リドリー、歌手のリタ・オラ、ファッション・デザイナーで元スパイス・ガールズのビクトリア・ベッカムなどにも愛用されています。