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アイルランドの母子施設で起きた重大な人権侵害について首相が謝罪した件

 

 

アイルランドで今週とても大きな話題になったのは、カトリック教会や国が運営していた母子支援施設で重大な人権侵害がはびこっていた件について調査結果が発表され、これに基づき首相が被害者に謝罪した件です。

 

日本語でもニュースになっていましたね。

 

www.afpbb.com

 

今はそうでもないですけど、アイルランドはご存じのようにカトリック教会の力が強く、未婚でセックスすることも道徳的に悪だとされていて、結婚していないのに妊娠するなんていうのはもってのほかだったのです。また、中絶も違法でした。

 

そこで、そういう母子にサポートを提供するという名目で、教会や国が支援施設を運営していたわけです。こういう施設は一般的に Mother and Baby homes と呼ばれたのですが、実際には道徳的な罪を犯した女性を罰する/矯正するという性格が強かったようです。

 

今回の報告書は、1922年 (アイルランド建国) から 1998 年までに、18件の施設で何が起きたかを調査したものです。報告書によれば、76年の間に合計9000人の子供が施設内で死亡。施設で生まれた7人のうち1人が死んだことになります。これは一般の乳児死亡率の2倍。死んだ子供は適切に埋葬されず、集団墓地にひとまとめに埋められたことも多かったといいます。また、母親の同意を得ずに子供を外国に養子に出すことも常態化していました。

 

今回の調査のきっかけを作ったのは、キャサリン・コーレスさんというゴルウェー県に住むアマチュア歴史家です。主婦だったのですがイブニング・コースに通って郷土の歴史に興味をもったコアレスさんは、まず地主について調べて記事を書き、地元の歴史雑誌に載せてもらいました。

 

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キャサリン・コーレス (Catherine Corless) さん

 

その記事の評判が良かったので、コーレスさんはもう1本記事を書いてくれと編集長に頼まれます。そこで、かの女の地元のテュアム (Tuam) にあったボン・セクール (Bon Secours) マザー・アンド・ベイビー・ホームについて記事を書くことにしました。

 

コーレスさんはこの施設の出身ではありませんが、クラスに施設から通ってくる生徒がいたのです。石ころをお菓子の包み紙にくるみ、お菓子だと思わせて施設の子の1人に渡すといういたずらをしたことが、コーレスさんの苦い思い出として残っているそうです。

 

記事のための調査を始めたコーレスさんは、この施設について書かれた文書が非常に少ないことに気付きます。この施設は1961年に閉鎖され、現在は住宅地として再開発されているので、まずそこの住民に聞き取り調査を行い、敷地内に集団墓地があることを知らされます。住民たちは飢饉で死んだ人たちの墓地だと思っていたそうです。

 

コーレスさんは次にオードナンス・サーベイ (日本でいう国土地理院みたいな役所) の地図を調べ、集団墓地の場所はかつては汚水処理槽だったことを突き止めます。施設を運営していたボン・セクール修道女会にも問い合わせますが、要領を得た返事は帰ってきません。死亡した子供の死亡診断書を取り寄せ、埋葬場所が記載されていないことを確認した後、彼女は地元の歴史雑誌に記事を書きます。その記事は、「死んだ子供たちは汚水処理槽に埋葬されたのか?」という問いかけで終わっています。

 

コーレスさんは当局がこの記事に注目するだろうと期待したのですが、そうはなりませんでした。そこで彼女はさらに調査を進め、施設で死んだ798人の死亡診断書を取得し、やはり埋葬の記録がないことを確認しました。

 

コーレスさんは記念碑を立てる費用を集めるために、地元のメディアにアプローチしましたが、小さな記事が出ただけでした。これが2013年のこと。彼女のストーリーは、2014年2月にコナハト・トリビューンという地域紙に取り上げられた後、遂に同年5月にアイリッシュ・メイル・オン・サンディという日曜全国紙の一面を飾ることになります。ここから火が点き、海外メディアからの取材依頼が殺到することになるのです。

 

そして2015年に政府によって調査委員会が設立され、冒頭に書いたように、その結果が今週初めに発表されたわけです。

 

ミホール・マーティン首相の謝罪の言葉(抜粋)

この報告書に記された証言の明確なメッセージの1つは、女性や子供をこのように処遇したことは、国、そして社会としての私たちの振舞いの直接的な結果だということだ。この報告書は私たちに深淵な問いを投げかける。

 

私たちは屈折した宗教的道徳と管理、行き過ぎた批判的態度、道徳的確信を支持したが、この国の女性たちを疎外した。

 

私たちは敬虔さを重んじるが、やさしさを最も必要とする人達に基本的なやさしさを示すことができなかった。

 

私たちは性や愛情についてまったく歪んだ態度を取っており、若い母親やその息子と娘たちは、この機能不全に対する酷い代償を支払うことを余儀なくされた。

 

この報告書に詳述された暗く恥ずかしい現実を正面から見つめるため、これが国の歴史の一部であることを認める必要がある。これほどまでに残酷に取り扱われた女性や子供たちに対してできることを行い、深い悔恨、理解、支援を示す必要がある。

 

マザー・アンド・ベイビー・ホームやカントリー・ホームに入所したアイルランド人の母親とその子供が被った何世代にもわたる奥深い不正について、政府、国、その市民に代わり私は謝罪する。委員会が単刀直入に述べたように、「彼らはその場所にいるべきではなかったのだ」。

 

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