昨日のアイリッシュタイムズ紙の一面なんですけど、古い絵葉書の写真です。赤毛の子どもたちが泥炭を切り出してロバで運ぼうとしています。場所はゴルウェーのコネマラ。
左側に写っている黄色いシャツの少年、パディー・ライドンさんが 65 歳で亡くなりました。それが、この絵葉書が一面に掲載された理由です。
半世紀ほど前、少年だったパディさんが妹のメアリーさんと泥炭を集めていたところ、通りがかった写真家に、ハーフクラウンあげるから写真を撮らせてくれと言われたそうです。そして、とりあえず家に帰って服を着替えてきてくれと。汚れる仕事なのに華やかな服を着ているのはそのせいなんですね。
この写真家というのはイギリス出身のジョン・ハインドという人です。この人はアイルランドの田舎の自然と人々を写真に収め、会社を興して絵葉書にして売り出し、大成功しました。海外におけるアイルランドの純朴イメージの形成に、良くも悪くも大きな役割を果たした人です。
私もアイルランドに来た当初は絵葉書をいっぱい買って出しましたが、この絵葉書のことはよく覚えています。
ハインドの写真は最初は称賛されていたんですが、後には「低俗の殿堂」などと呼ばれておおいに批判もされました。海外の人が思うようなアイルランドの田舎のステレオタイプを増幅させて、お金儲けしたように思われたのでしょう。服を着替えさせたエピソードのように、ちょっと演出も入っていたようですし。
ただ、こうして今になって全国新聞の一面を飾るということは、この写真を覚えている人はたくさんいるし、これを見て昔の私たちの生活はこうだったとノスタルジーを感じるアイルランド人もいるだろうし、日常生活をファンタジーのように美化して商売にすんなよみたいに怒ってたことも含めて、思い出の領域に昇華されてしまったのかもしれません。
彼の絵葉書は世界中を旅しましたが、パディさん自身は生まれた村を離れず、独身のまま腕のいい大工として一生を過ごしたそうです。