たらのコーヒー屋さん - 2 店舗目

たらのコーヒー屋さんです。

映画「メトロポリス」

イメージ 1

 

1927 年ドイツ
監督: フリッツ・ラング
出演: Alfred Abel, Brigitte Helm, Gustav Fröhlich
at IFI

 

1980 年代の終わりごろ、ブエノスアイレスの映画クラブで、映画保存の専門家であるフェルナンド・ペナさんは、年老いた映写技師のぼやきを偶然、耳にしました。

 

「『メトロポリス』の画質も悪くなっちゃって、こんなのお見せするのは申し訳ないなー。それだけじゃなくて、もうこんな年になっちゃうと、プロジェクターの横に2時間以上立ってるのもつらいんだよね」。

 

ペナさんは、『メトロポリス』が元々は2時間24分の映画であることを知っていました。しかし、公式にリリースされたバージョンは2時間弱です。

 

この映画を作った映画会社は、1927年の公開直後、倒産してしまいました。この映画にお金をかけすぎたことも一因だったらしいです。これを買収したドイツのメディア界の大立者は、上映時間を短くして上映回数を増やせばもっとお金がもうかるんじゃないかと考え、30分ほどカットしてしまいました。カットした部分は捨てられてしまったので、映画史上に残る SF 映画と言われながらも、現存しているのは、不自然につぎはぎ編集された短いバージョンだけだと思われていたんですね。

 

ペナさんは、映写技師が話していたフィルムを探しましたがどこにも見つからず、折に触れては友人にその話をこぼしていました。友人のひとり、パウラ・フェリックス=ディディエールさんが2008年にブエノスアイレス映画美術館の館長になったとき、2人は保存室に行き、リールを探し出しました。

 

後からわかった話によると、1927年にアルゼンチンの映画配給会社の社長がベルリンに行ったとき、『メトロポリス』を気に入ってアルゼンチンでの配給権を買い、完全版のフィルムを鞄につめて帰ってきたのだそうです。その後、フィルムはある評論家の手に渡り、彼のコレクションの一部となりました。彼はそれを映画クラブに貸し出したりもしていましたが、1970年に彼が死んだときに国に寄付され、最終的に1992年に映画美術館の管理するところとなったのでした。

 

この「発見」の後、フレームごとに注意深く復元作業が行われ、残念ながら完全に修復とまではいかないものの、かなりの部分が追加された新しいバージョンが完成し、このたび公開されることになりました。

 

ダブリンでは、まず 9月10日にナショナル・コンサート・ホールで上映会がありました。オーケストラ (フルじゃなくて16人くらい) が生で劇伴したそうです。チケットは早々にソールドアウト。

 

そして、先週からIFIで公開されたので観に行ってきました。100人ぐらい入る劇場は満席。早めに入ってチケット買ってよかった。

 

映画史上に残る名作とは聞いてましたけど、モノクロだし、セリフはないしで 2 時間半近く飽きずに見てられるかなともちょっと心配だったんですが、それは取り越し苦労でした。

 

まず、セットっていうか美術が大掛かりで斬新。まあ、もちろん、今の基準で言えば「斬新」とは言えないんですけど、古びた印象を与えない。むしろ、この映画からもろもろの SF 映画は影響を受けたんだろうなと思わせます。

 

エキストラも1万人単位で使ったらしくて、群衆シーンが迫力ある。特に、水没しようとする地下都市で逃げ惑う子供たちのシーン。あれは、ヘタしたら溺れちゃう人でたんじゃないいかなあと思うくらい真に迫ってました。

 

ストーリーの方は公開当時ですら「センチメンタル」と批判されたようで、確かに吉本新喜劇のような定型的な印象を与えるんだけど、でも観客を楽しませるいろんな要素がつまっています。

 

労働者のディストピアと支配者のユートピアの対比、父と子の葛藤、アンドロイド萌え、マッド・サイエンティスト、魔女狩り、聖書からの引用とか。

 

一番すごかったのは、ヒロインのマリアです。最初は地底都市の最深部にある集団墓地で労働者に対して上流階級との融和を説く純真無垢なまさしくマリア様のような女性として登場します。ところが、彼女を捕えたマッド・サイエンティストが、彼女にそっくりのアンドロイドを作ります。このアンドロイド・マリアが今度は労働者を扇動し、地上では歓楽施設で肌を露出した姿で踊りまくり、上流階級の男たちをたぶらかします。このギャップ萌えはあざといぐらいなんですが、萌えないわけにはいきません。演じた女優さん (ブリギッテ・ヘルム) も頑張りました。

 

しかし、この歓楽施設の名前が「Yoshiwara」っていうんですけど、さすがにドイツ人の仕事は徹底的ですね。

 

この復刻版は、おそらく日本でも公開されるんじゃないでしょうか。SF 映画や SF アニメのファンの方にはお勧めします。映画自体も面白いですし、また、あー、あの映画のあの部分は『メトロポリス』から借用してるんだー、なんていう楽しみ方もできるかもしれません。