たらのコーヒー屋さん - 2 店舗目

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『歩いても 歩いても』

「歩いても 歩いても」(英題: Still Walking) 2008 年、日本映画
監督: 是枝裕和
出演: 阿部寛、夏川結衣、You、樹木希林、原田芳雄

 

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是枝裕和監督の『歩いても 歩いても』を IFI で見てきました。増設された 3 つ目のシネマです。座席数が 60 くらいの小さなシネマでした。

 

海辺の町で暮らす老夫婦のもとに、息子夫婦と娘夫婦がそれぞれの子供をつれて帰省してきます。家族以外には何の意味もないような会話が休みなく続くんだけど、その中で家族が集まった理由や、登場人物の愛すべき点や弱点やダークサイドや思い出がさりげなく明きらかになっていきます。

 

会話がとても自然で、机の上でこれ全部脚本書いたんだったらすごいなと思ったんだけど、一緒に観に行ったお友達に、「この映画すごかったね。会話がすごい自然やん」と言ったら、「いやそれは映画が凄いんじゃなくて、たらちゃんが望郷の念にかられてるだけちゃうん」と一蹴されました。そういうことが言いたかったのとはちょっと違ったんだけど、でもまあそうかもしれません。

 

こういう会話ってどっかで聞いたことあるなー、と白々しく書くまでもなく、うちの実家での会話に笑っちゃうくらいそっくりなんです。具体的な内容はもちろん違うんだけど、その肌触りが。母親が意味のない (ように聞こえる) ことを延々としゃべったり、父親が意味のあることしかしゃべるまいとして意味もなく無口になったりとか。

 

パンフレットによれば、この映画は是枝監督の半自伝的な映画だそうです。是枝さんは私と同世代、っていうかまったくの同い年なんですけど、こういう家族のありかたって世代的なものがあるんだろうか。たぶんあるんだろうなと思います。

 

昭和の古き良き時代で、父親はお金さえ稼いで来てれば父親の役割を果たしていることになったし、母親は家にいて、子供をしっかり育てるのが美徳だった。それがいいとか悪いとかじゃなくて、そういう時代でした。家電がいっぱいできてたぶん家事は昔よりは楽になったんでしょう。正直な話、私はあまり家事を手伝った記憶がありません。勉強していればOKでした。

 

勉強すればいい大学に入れ、いい大学に入ればいい会社に入れ、いい会社に入ればとっても幸せと信じられていました。後出しジャンケンみたいでちょっと言いにくいんですけど、私はそれはちょっと違う可能性もなきにしもあらずじゃないかと薄々感じてたんですが。んー、すごい後出しっぽいな。まあいいや。

 

親の世代は兄弟多いですけど、私たちの世代は 2 人がデフォルトです。兄弟の人数の世代間のギャップって、私と私の親の世代あたりで初めて生まれたのですよね。兄弟の数の少ない私たちは、家庭を守る母親の愛情をたっぷり浴びて育ったのでした。

 

信頼する私の友人 (女性) は、いわゆるおたくっていうんですか、内側に突き詰めていっちゃうタイプの男性には共通点があるといいます。彼女の回りには私も含めてそういうのが何人かいるわけで、彼女はおうちまで遊びに行ったりするわけです。うちにも来ました。で、その共通点はなにかというと、母親がむちゃくちゃしゃべるということだそうです。

 

父親の不在と母親の過剰な存在が私たちの世代に特徴的な家族のあり方だったのかもしれません。念のためにもう一度言いますけど、それが良いとか悪いとかではなく、そういう時代だったということです。

 

浅草花やしきの占いのおじさんに言われて、実家帰って墓参りにいっといてよかったなと、この映画を見て思いました。

 

阿部ちゃんは、なんだかある意味、日本を代表する役者さんになりましたね。特になんの不自由もなく育ってきた人の実存的困難とまでは言わないけど屈託みたいなものを表現させたらこの人の右に出る人はいないんじゃないか。日本代表にしては背が高すぎるけど。バブルの頃はあんなちゃらちゃらしてたのに。いや、私もソフトスーツ着てましたけど。