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ダニエル・オドネルのコンサート

先日 (8月12日)、ボード・ガシュ・エナジー劇場で行われたダニエル・オドネルのコンサートに行ってきました。

 

ダニエル・オドネルはアイルランドでは知らない人のいない芸歴40年を超える歌手です。歌う曲はアイルランドフォークソングカントリー・ミュージック、有名なポップスのカバーなどです。ファン層は主にご年配のご婦人方で、今回のコンサートでも平均年齢は60歳以上、8~9割が女性だったのではないかと思います。キルデア・ナンバーやウィックロー・ナンバーのバスを貸切ってきている人たちもいました。

 

コンサートは2部構成。つまり休憩が入ります。前半と後半で一度ずつ衣装替えがあり、衣装替えの間はコーラスの女性が一曲歌います (後半の衣装替えのときに歌ったのはロレッタ・リンの『Coal Miner's Daughter』)。オドネルは、前半はまずエンターテイナーらしい黒いきらびやかなジャケット、その後が黒の革ジャン。後半はおとなしめの黒のジャケットで出てきて衣装替え後は白いジャケットでした。

 

演奏した曲は、オドネルのオリジナル・ソングのほかに、私の覚えている限りでニール・ダイアモンドの『スイート・キャロライン』、クリスタルズの『ダ・ドゥ・ラン・ラン』、ジョニー・キャッシュの『リング・オブ・ファイア』、そしてダブリンのアンセムともいえる『Dublin In The Rare Ould Times』などでした。

 

コンサートを通してオドネルが語るのは家族愛や友情です。こう書くとものすごく綺麗ごとに聞こえるんですが、エピソードがいちいち説得力があるというか、アイルランドの方にはおそらく非常に共感できるお話なんだろうと思います。

 

たとえば、彼はお父さんを6歳のときに失くしているのですが、お父さんはスコットランドに出稼ぎに行ってほとんど家にいなかったそうです。両親は19年間結婚していて3年9か月しか一緒に暮らしていないそうなんですが、そんな家族は当時はたくさんあったのだそうです。

 

それからお母さんはドネゴールのオーウェイ(Owey)島というところの出身なんですが、この島は電気を引くのを拒絶したそうで、理由はたぶんいろいろあったんでしょうが、その中の1つはテレビなんかの影響を受けて人々が堕落するといけないから。しかし、電気がないとやはり若者は島を離れるわけです。お母さんも島を離れ、そのうちにオーウェイ島が無人島になってしまいました。

 

お母さんは90歳のときに彼女の弟と共に島を再訪します。そのときに島の思い出を詩にしたんですね。その詩に曲をつけたのが『My Lovely Island Home』という歌です。舞台奥に大きなモニターが設えられていて、そこに今はもうお亡くなりになったお母さんが詩を朗読する様子が映し出されます。そして音楽が始まり、オドネルが歌い始めるんですね。

 

友情の点では、これもビデオでチャーリー・プライドというアメリカのシンガーが登場します。プライドは黒人初のカントリー・シンガーとも称される人で、残念ながら2020年にコロナでこの世を去っています。オドネルが初めてテレビで冠番組をもったときにプライドがアメリカから駆けつけてくれたらしいんですね。その時以来の友情で、『Crystal Chandeliers』というデュエット曲も発表しています。

 

今回のコンサートでもこの曲を歌うわけですが、どういう仕掛けになっているのかわかりませんが、ビデオ内で歌うプライドとリアルタイムで歌うオドネルがピッタリとシンクします。

 

そのほかにも80年代からずっと一緒にやっている裏方さんやバック・シンガーを紹介したり、会場のお客さんからのメッセージを読み上げたりします。「今日は xx さんの91歳の誕生日です、おめでとう」とかいうので 91歳かすごいなあと思っていたら、次に 92 歳の人、そして 100 歳の人が紹介されて私は目を回しました。

 

コンサートが終わってロビーに出てみると、なんだかお客さんがまた並んでいます。終演後も物販もやるのか珍しいな、などと思いながら私は帰宅したのですが、帰りの Luas の中でプログラムを読んでみますと、オドネルがロビーに出てきてお客さんに挨拶するんだそうです。並んでいたということは一人ひとり握手などするんでしょうね。ものすごいファンサービスです。

 

オドネルは絵にかいたような善人のイメージの人なので、パロディのネタにされることもよくあります。たとえば 1990年代の人気コメディ『Father Ted』の『The Night of Nearly Dead』というエピソードでは、オドネルをモデルにしたオーエン・マクラヴという歌手が登場して大暴れします。

 

しかし、オドネルはこちらのガス修理のCMのように自分を笑いのネタにできる度量もあります。ガス器具の修理は専門家にまかせましょうという啓発CMなのですが、オドネルの大ファンの年配の女性の家をオドネルがお茶しに訪れるという設定。部屋の中にはオドネルのグッズが所狭しと飾られており、女性はオドネルに会えたうれしさに乙女のように目を輝かせています。女性が「ちょっと寒くてごめんなさい。ガスボイラーの調子が悪くて」というとオドネルが「じゃあ私が見てあげましょう」と応じます。すると女性の態度が急変し、オドネルは外に追い出されます。そこに「登録業者以外のガス器具業者を使うのはやめましょう。それがたとえダニエルでも」というナレーションが入ります。

 

ダニエル・オドネルはアイルランドだけでなくイギリスでも非常に有名で、1987年から少なくとも2021年にかけて、毎年違うアルバムをイギリスのチャートに送り込むという記録をもっているそうです。

 

ダニエル・オドネルの名前は私ももちろん知っていましたが、正直なところこれまで特にコンサートにまでいって歌を聴きたいと思うような歌手ではありませんでした。今回チケットを買ったのは、何かおもしろい公演はないかなと ticketmaster.ie を探していたらダニエル・オドネルのコンサートがあって、チケットが最後の1枚だけ残っていたのです。これも何かの縁だと思って購入したわけですが、私にとって全く新しいタイプのコンサートを体験できてとてもよかったです。

 

 

2024/08/24追記

書き忘れていましたが、ボード・ガシュ・エナジー劇場はいま『Wicked』がロングラン中なんですね。ただ毎週月曜日が休演なんです。その休演日を使ってダニエル・オコネルがコンサートを行ったわけです。それで、舞台セットをどのようにやりくりしているのか私はちょっと気になっていました。

 

ダニエル・オコネルのステージはシンプルなもので、バンドさんが上に乗るプラットフォームがあるぐらいでした。オドネルが中央で歌って舞台の上手にキーボード奏者、下手にコーラスの女性2人。後方に横に長いプラットフォームがあって、演奏者が上手に2人、下手にたぶん1人 (席が端の方だったのでよく見えなかった)。プラットフォームの中央に階段があってオドネルはそこから登場します。プラットフォームの後ろにも階段があるのでそこから出入りすることもできます。

 

『Wicked』の舞台装置は、舞台袖の縦に長い書割みたいなのはそのまま置いてありました。それから前方の客席の上には大きな仕掛け物がぶらさげてあるのですが、それもそのままにしてありました。

 

あとですね、私はオドネルさんにニックネームを付けました。オドネルさんは歌がものすごくうまいわけでも踊りがものすごくうまいわけでもないんですよ。というか、ものすごくうまく見せたいわけではないようです。力んで熱唱したりすることはありませんし。踊りも腰を1回くいっと動かすだけで客席は大盛り上がりですからそんなダンスする必要もありません。近所にいる普通のおじさんのようでもあります。芸能界ではモデルのような美人ではなくどこにでもいるような明るく元気なタイプの人を「ガール・ネクスト・ドア」なんていいますが、オドネルさんは「おじさん・ネクスト・ドア」でいかがでしょうか。だめだったら第二の候補として「ナイス・ミドル・ネクスト・ドア」をあげておきます。

 

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