私はいろいろとお酒関係のものを収集しているのですが、パブに行くとテーブルに置いてあるビアマットもその1つです。ちなみに、プラスチックなどでできていて、何度も使えるものはコースターと呼ばれ、紙製の使い捨てのものはビアマットと呼ばれます。
いろいろな会社が広告ツールとしてビアマットを使用していますが、やはり最も多いのはアルコール飲料です。ウイスキーのももちろんあります。たとえば次のようなもの。
しかし、最近はクラフト・ビールのビアマットをよく見かけます。小さな醸造所はテレビ広告などを打つ資金はないと思いますので、安価なビアマットを利用しているのかもしれません。
さて、次の写真に写っているのは、すべてアイルランドのクラフト・ビールのビアマットです。
アイリッシュ・ウイスキーのブログなのに、「なんでクラフト・ビール?」と思われるかもしれませんが、最後にウイスキーの話につながりますので、ご安心して(?)お読みください。
有名どころのクラフト・ビールをいくつかご紹介します。まず、カーロー県に本拠を構えるカーロー・ブリューイング社のオハラズ(O’Hara’s)。
創業は1996年と、アイルランドのクラフト・ビール会社としては老舗であり、規模としても最大手の1つと言っていいでしょう。アルディ(Aldi)というスーパーのプライベート・ブランドの供給元でもあります。
こういうパブのサインも、小さなクラフト・ビール会社ではできないと思います。
次は、ポーターズハウス (Portershosuse)。
たぶん、アイルランドのクラフト・ビールの中では一番有名。こちらも1996年の創業ですが、オーナーはこれ以前にもクラフト・ビールの事業にトライしていたので、アイルランドのクラフト・ビールのパイオニアはポーターズハウスだと言っていいと思います。
ポーターズハウスは同名のパブを何軒か経営しています。下の写真はトリニティ大の近く、ナッソー・ストリート(Nassau Street)にある店舗です。テンプルバーやロンドンにも支店があります。
ポーターズハウスのオーナーはウイスキー・ビジネスにも進出していて、ディングル蒸留所はグループ企業です。ポーターズハウスは2人の従兄弟が始めた会社で、そのうちの1人がウイスキーを一生懸命やっていたんだけど、2016年に57歳の若さで急死。蒸留所を始めたのが2012年だから、ウイスキーの初出荷は見届けることができたか。
さて、次はこちら。フランシスカン・ウェルとエイト・ディグリーズ。
この2つは厳密にはもうクラフト・ビールと呼べないかもしれません。2つとも大手の会社に買収されてしまったからです。
フランシスカン・ウェルは1998年にコークで産声を上げた会社。醸造所は、800年前にフランシスコ会修道院が建てられた場所にあります。2013年にカナダに本拠を置くモルソン・クアーズに買収されました。当時はまさにクラフト・ビールが日の出の勢いでしたし、大手ビール会社も新しいビール愛好家を開拓するための商品を探していたのでしょう。
エイト・ディグリーズの方は2010年にコーク県のミッチェルズタウンで設立。2018年にジェムソン・ウイスキーなどを生産するアイリッシュ・ディスティラーズ社に買収されました。
どうしてウイスキーの会社が? と思われるかもしれませんが、その理由はジェムソンのカスクメイト・シリーズというウイスキーにあります。
どういうことかといいますと、ジェムソンの公式 Web サイトから引用します。
カスクメイツ・シリーズでは、「ジェムソン・ウイスキーの熟成に使用した樽で、アイリッシュスタウトを熟成させてバレルエイジドビールを造り、その樽を再び蒸留所に戻してジェムソン・ウイスキーのフィニッシュに使用」するのです。
以前は上述のフランシスカン・ウェルとのパートナーシップでカスクメイツを生産していたのですが、カスクメイツの人気が高まるにつれ、フランシスカン・ウェルとの協力だけではまかないくれなくなってきたのです。
そこで、エイト・ディグリーズを買収することによって、カスクメイツ生産用のビール熟成樽を安定的に確保しようとしたのです。商品ポートフォリオを拡大することではなく、製造に必要な樽を確保することが第一の目的でビール会社を買収するというのはおもしろいですね。
この買収に関するアイリッシュ・タイムズ紙の記事はこちら(2018年5月11日)
クラフト・ビールは今でも人気が高くて、スーパーマーケットの商品棚でもかなりのスペースを占めていますし、クラフト・ビールを主に置いているパブなんかも珍しくありません。