たらのコーヒー屋さん - 2 店舗目

たらのコーヒー屋さんです。

今月見た映画 2013 年 6 月

 
おそくなりました。6 月は 6 本見ました。

 

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Populaire (2012 年、フランス)
6/6 at Light House Cinema
監督: Régis Roinsard
出演: Romain Duris, Déborah François
予告編を見たときはしょうもないラブコメみたいだったので、見るのやめようかと思ったのですが、見に行ってよかったです。時代設定は 1958 年のフランス。田舎の純朴な少女が地方都市に出てきて保険代理店の秘書の仕事を見つけます。その代理店の若旦那が彼女のタイピングの才能を見抜き、特訓を重ねてタイプ早打ちコンテストの地方大会、全国大会と勝ち抜き、ニューヨークの世界選手権にまで駒を進めるという話。ドジっ子が憧れの男性の教えを受けて成長するというかつての大映ドラマのような展開です。このロマンスを本筋にして、父と娘の間の確執と愛情とか、仕事一筋だった若旦那が人間関係の大切さに気付いたりとかが描かれます。

 

タイピングのコンテストって昔はほんとにこんなに盛大にやってたんですかね。優勝するとタイプライター・メーカーのスポンサーがつくとか。しかし、いくら昔の話とはいえ、タイピストっていう補助的な役割の仕事を上司の男性が特訓する映画なんてのは、ポリティカル・コレクトネスうるさいアメリカでは不可能なんじゃないかと思います。ラブコメはもう男性名詞と女性名詞の区別のある国にまかせちゃった方がいいんじゃないかなとも思います。

 

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The Stone Roses: Made of Stone (2013 年、イギリス)
6/14 at Light House Cinema
監督Shane Meadows
出演: Ian Brown, John Squire, Mani, Rani
がに股でその場で足踏みしながら歌う姿が志村けんさんそっくりと評判のイアン・ブラウンさん。彼が率いるストーン・ローゼズの再結成の様子を追ったドキュメンタリーです。冒頭で「I wanna be adored」のイントロが聞こえてくるだけで高揚してきます。彼らの曲はこれぐらいしかまともに知らなかったんですけど。

 

再結成ツアーに出る前に地元の小さなシアターで抜き打ちギグをやるんですが、そこのシーンが圧巻です。当日にTwitterで告知して、ストーンローゼズの CD/レコードかグッズを持ってくれば無料で入場できるという企画。彼らをリアルタイムで知るファンはもうおっさん/おばちゃんですし、彼らの子供とか若いファンも詰めかける。CD やらグッズを持ってみんなかけずり回ります。入れなかったファンはシアターの外で指を咥えて漏れてくる音だけ聞いています。ストーンローゼズはもっととんがったイメージでしたけど、世代を越えて愛されるのがわかります。

 

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Behind the Candelabra (2013 年、アメリカ)
邦題: 恋するリベラーチェ
6/15 at Light House Cinema
監督: Steven Soderbergh
出演: Michael Douglas, Matt Damon
生きてるうちにまさかこんなものを見せられるとは。油断していました。マイケル・ダグラスとマット・デイモンのラブシーン。ダグラスがリベラーチェっていうラスベガスのショーで活躍したピアニストを演じます。デイモンは秘書兼愛人みたいな形で雇われた若い男の子 (スコット・ソーソン)の役。ソーソンの書いたノンフィクションに基づく実話だそうです。ソーソンが愛人として拾われて、そして捨てられるまで。1970 年代後半の話ですから、まだゲイであることもエイズであることもリベラーチェは死ぬまで公表しなかったんですね。

 

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Before Midnight (2013 年、アメリカ)
6/22 at Lighthouse Cinema
監督: Richard Linklater
出演: Ethan Hawke, Julie Delpy
「Before Sunrise」、「Before Sunset」に続く、シリーズものの第 3 弾です。前の 2 作は私は見ていないのですが、とてもロマンチックな作品だったらしいですね。今作では主人公の 2 人は 40 代に差し掛かり、日々のいろんなリアリティに押し流されそうになるのを必死にこらえて頑張って前を向いています。いやあもう、ジュリー・デルピーが延々と責め立て、イーサン・ホークがものすごい粘りでそれをいなしながら打ち返します。卓球でいうと、デルピーがペンホルダーでホークがカットマンという印象です。今回のはコメディーっていっていいんじゃないかな。逆にコメディーじゃなかったら怖いな。

 

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Stories We Tell (2012 年、カナダ)
6/29 at Light House Cinema
監督: Sarah Polley
変な味わいの映画でした。監督のサラ・ポリーはカナダの女優/監督。30 代前半で知る人ぞ知る、新進気鋭の映画人みたいな感じだと思う。それで、彼女は 5 人兄弟の末っ子で、お父さんもお母さんもセミプロの俳優。彼女は小さな頃からお父さんの子じゃないんじゃないかとお兄さんやお姉さんにからかわれながら育った。彼女の生まれる前の年に、お母さんは舞台の仕事で実際に家を空けていたことがあった。ポリー監督は自分の出生の秘密を探るため、当時の母親を知る人たちに話を聞きに行くことにする。

 

で、ここまでは本当のことなんだけど、話を実際に聞きにいったときには彼女はカメラを持ってってないんです。だから、すべてが明らかになった後からインタビューと再現ドラマを撮ってるんです。お父さんやお母さんの若い頃を演じる俳優さんを雇い、セピア色の効果をつけて、本当に昔のビデオっぽくしています。私は途中までだまされていて、よくこんないっぱい家族の映像が残ってるなあ、演劇一家だからかなー、などと思っていました。でも、ひとつそういうギミックを入れたせいで、重たいどろどろした人間模様を描いたドラマいうよりも、軽やかな家族劇に仕上がっています。お父さんが自分が書いた文章をナレーションで読み、卓に座ったポリー監督が「Dad, そこもう一回お願い」などと指示を出すのですが、その「Dad」の呼びかけが心にしみます。

 

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The Act of Killing (2012 年、カナダ)
6/30 at Light House Cinema
監督: Joshua Oppenheimer
これも変なドキュメンタリーだった。1960 年代のインドネシアでは赤狩りが盛んに行われて、多くの人が殺されたのだそうです。ところが、当時、共産党員を殺していた集団が、いまでも街の顔役みたいな形で力を持っていて、政治家なんかともつながりがある。もちろんもうおじいちゃんなんですけどギャングなんですね。

 

オッペンハイマー監督は当時のことを描いた映画を撮ろうと彼らにもちかけ、彼ら自身が当時起こったことを素人劇で演じ、監督はそれをカメラに収めます。虐殺シーンもありますから、安っぽい特殊メイクで拷問で傷だらけになった顔を作ったりとか。天の羽衣みたいなのを来たきれいな女性たちと、滝のそばの水しぶきがかかるような場所でスローなダンスを踊る幻想的なシーンとか。その合間に、ギャングのリーダーは当時どのように人を殺したかを誇らしげに実演したりします。あと、ギャングってマッチョなイメージですけど、嬉々として女装したりします。狂気なんだか本気なんだかわからない怖さがあります。

 

彼ら自身はこの映画は欧米でも受け入れられると無邪気に考えています (もちろん、監督は最初に説明したのとは違う種類の映画に仕上げたわけですが)。それはたぶん、彼らが当時やってたことは欧米は少なくとも黙認してたし、資金提供ぐらいのことはしてたかもしれないから。まあもう当時とは時代が変わっちゃったわけだけど、彼らはそれに気付いていないわけです。

 

それで、映画の後 Q&A があるっていう話だったのでそのまま残ってたんです。こういうときの Q&A ってだいたい映画について監督に話を聞いたりするわけですが、今回は 3 人が前に出てきて全員が人権擁護運動をやってる人。それで、3 人が交代で10 分ぐらい熱くしゃべり続けます。いかにインドネシアの状況が嘆かわしいものか、とか。いや、私もおっしゃってることは正しいと思いましたけど、せっかく映画監督がなるべく善悪の価値判断を排してパワフルな映画撮ったんだから、そのあとすぐにそんな一面的な説教するのはどうかと思いました。映画についてでもないし、Q& Aですらないという。しびれを切らした客席の人が挙手して発言を求めだしたので説教は止みましたが、それがなかったらどれだけ続いたかわかりません。それも含めて奇妙な日曜の午後を過ごすことができました。