『ハイファッション』という雑誌の編集者だったマツオ (香川県出身) さんという人が村上春樹さんをたぶらかして「讃岐・超ディープうどん紀行」と題するエッセーを書いてもらったのが 20 年前 (単行本では『辺境・近境』所収)。
一節を紹介します。
「(前略) この旅行を終えたあとでは、うどんというものに対する僕の考え方もがらっと変わってしまったような気がする。(中略) 僕は以前イタリアに住んでいたころ、トスカナのキャンティ地方を何度となく旅行し、ワイナリーを訪ねてまわって、その結果ワインというものに対する考え方ががらりと変わってしまったことがあるけれど、このうどん体験はそれに匹敵するものであったと思う」
『ハイファッション』というおそらくはハイブローなファッション誌において、村上春樹にこんなことを書かせたマツオさんには県民栄誉賞をあげてもいいぐらいと思います。
その後、90 年代半ばごろから田尾和俊さん (実家がうちの近所。関係ないけど、元楽天監督の田尾安志さんのお父さんの実家もうちの近所)の「恐るべき讃岐うどん」シリーズが登場。このシリーズは結構話題になったらしいけど、出版元が地方の出版社だったし、この時点ではまだまだ「香川=うどん」というふうに全国的には認知されてなかったのではないか。
2 ちゃんねるの AA で「かがわ」というのがあります。

これは、「さいたま」っていう AA から派生したものなんですけど、「さいたま」が底抜けに能天気でポジティブなのに対し、「かがわ」は病んでいます。
オンラインのAA 辞典にはこういう解説が掲載されています。
かがわ【かがわ】
自虐的で、失望者。もはや香川には未来がないと思っている。
極度のMであり、日本で一番小さい県。度胸も小さい。
右は「ねぇよ」しか言わないらしく、「ネーヨ」の親戚とか言われてる。
太陽は未来が無い分、後光も4本しかない。
「さいたま」の初出が 2000 年代前半らしいので、その頃にはまだ香川のイメージはこんな感じだったのだと思います。なので、少ないリソースをうどんに集中させて、一点突破を図ったのはこの 5 年くらいのことでしょうか。ここ数年はうどんに関連付けずに香川を語ることはほぼ不可能になったんじゃないかというぐらいの勢いです。
ちょっと話が飛びますけど、『Fever Pitch』(邦題: 僕のプレミア日記) の著者であるニック・ホーンビーが編んだ『My Favourite Year』という本があります。
この本は、自分の好きなサッカー・チーム/クラブの一番思い出に残る一年について書いた文章を集めたものです。この中で、『The Commitments』なんかで有名なアイルランドのブッカー賞受賞作家・ロディー・ドイルが、1990 年 W 杯イタリア大会のアイルランド代表チームの活躍について書いています。
「中年の男が二回叫んだ。
『アイ・ラブ・アイルランド』
オランダと 1 対 1 で引き分けて決勝トーナメント進出を決めたときの描写です。ドイルにとってのナイル・クインの同点ゴールが私にとってはうどんになるとは。
それでですね、香川県がですね、「うどん県」に改名しましたというキャンペーンを始めました。
副知事に扮した要潤さん (うちの妹と高校が一緒!) が記者会見で「香川県はうどん県に改名します」と宣言。石倉三郎さん、木内晶子さん、川井郁子さんら県出身の有名人が県内の各地で県民に扮して「え、うどん県!?」と驚くという、何のひねりもない構成になっています。
うどん、うどん、言ってればいつまでもみんなが喜んでくれると思ってたら大間違いだぞ、ということに、そろそろ県観光課の方にも気づいてほしいと思いますが、うどん以外に何があるのかと聞かれれば、特に何もありません。
2020年10月5日追記:
こちらのミュージカル仕立てのPR動画もどうぞ。