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少子化と移民 (3/4)

(http://blogs.yahoo.co.jp/tarascoffeeshop/24643411.html から続く)

労働人口が足りないから移民に来てもらおうっていう提案なんだから、経済的な理由で来てもらうのは明らかなんだけど、なぜかそうは言わないんです。名村さんは最後の方で「人間が来るのに労働力として迎えちゃうから摩擦が起きちゃう。だから、そういうことのないように、今からみんなで考えときましょう」って言っています。

いや、もちろんそれは正しいですよ。労働力として来てもらうにしても人が来るわけだから、ホスト・ネイションの一人一人が移民を統合する努力が必要だってことは口を酸っぱくして言っていいわけです。だけど、これはずるいんですよ。

日本の大手のマスコミって、「移民の人たちに親切にしよう」でも「戦争はよくない」でもいいんだけど、ほとんど反論の余地のないステートメントだけ提示して、実際にそれがどうやれば達成できるのかみたいなことには詳しくつっこまない。喧々諤々の議論が起きるのはほんとはそこの部分なのに、耳当たりのいいことだけ言っておしまい。これやると、反論されにくい。反論されても、反論してる人がまるで「移民の人たちに親切にしよう」とか「戦争はよくない」みたいなことに反論してるモラルの低い人みたいに見せることができる。耳当たりのいいことだけ言うのが効果的だと知っててやってんのか、各論を議論する必要性に気付いてないのかどうか知らないけど。

たとえば、前篇で書いたニューズウィーク誌の Theil さんは、冷徹なロジックを展開して移民の必要性を説いてました。有能な人だけ選別して入れるべきだ、外国人労働者はバッファとして機能する、などと、書きにくいこと (こんなこと書くといい人って思われないかなー、みたいなこと) も書いて説得の努力をしていました。それに対して名村さんはどうでしょうか。「職がないのに 1000 万人も移民呼んでどうすんだよ」っていう当然の疑問にも答えようとしていません。

また、鳥越さんのことで言えば、途中で看護師とか医療関係の仕事でやってくるインドネシアの人に 3 年で日本語の試験を課すっていう話が出てくるんだけど、鳥越さんによればそれは「ひどい話」らしい。統合にはもちろんホスト・ネイションの努力も必要だけど、移民の方にももちろん努力が必要であって、その努力はたとえば言葉を覚えることとかです。そして、仕事するんであれば、雇用主の言葉をしゃべるってことは当然だと思います。言葉ができなければ、患者さんの対応もできないと思いますし。

私の日本人の知り合いの方で、アイルランドの看護師試験に合格した人がいます。もちろん試験は英語です。この方は日本の看護師資格は持ってましたけど、やはり語学には苦労されたみたいです。また、アイルランドの弁護士資格を取った日本人の方も知っています。こちらの場合は、英語だけならまだしも、アイルランド語の試験まであってたいへん苦労されてました。10 年以上の前のことなんで、アイルランド語の試験は今はないかもしれません。言葉できなくて仕事するってのは、ちょっと私には考えられないんだけどな。どうでしょう。

さっき書いた、名村さんが「今からみんなで考えときましょう」っていうところで、ラモスさんがちょっとあきれて「ありえないよ」っていうんですよ。すでに日本に来てる移民にすら統合の努力がこれだけ足りないのに、口先だけで移民 1000 万人とかよく言うよ、っていうことだと思います。いや、もちろん私はラモスさんではないから想像だけど。

今回の出演者の中で社会の少数派として暮らしたことのあるのはラモスさんだけです。ラモスさんも、おかしなリーグの規定で日本にきてすぐには試合に出られなかったり、「悪質なファール」ってことで異例の 1 年間出場停止になったりとか、いろいろつらいこともあったんだけど、まあいいこともあったし (外国人だからこそいい思いをする、ってのは、これはあります)、差し引きして考えればまあプラスかなってとこで日本国籍とって、日本にいる。日本のブラジル人街に行ったりして現場もみてる。

そういうラモスさんからすれば、社会の中心でずっと暮らしてきた名村さんや鳥越さんが口先だけで綺麗ごと言って、現場で起こるであろう、もしくは既に起こってるいろんな問題に何の手当てもしようとしない、もしくは手当てする必要性にすら気づいてないのをみて、ほんとに「ありえないよ」なわけで、その気持ちはアイルランドで 17 年間暮らしている私も共有します。

アイルランドは、昔は自分らが大勢移民してたということもあるんでしょうが、移民に対して統合の努力をする、手を差し伸べるってことの重要性はよくわかっているし、実際に努力しています。でも、それって、移民に対してだけではないんです。学校出て、新しく社会に参加してくる自国民の若い人に対しても統合の努力をし、手を差し伸べています。つまり、既に社会の中心に入る人が、端っこの方にいる人 (移民とか若い人とか) を統合する努力しないと、世の中まわんないぞ、ってことにもっと意識的だってことです。

翻って、日本はどうでしょうか。日本は社会的な地位があがるほど説明責任がなくなっちゃうような変なところがあります。察しろよ、みたいな。

最近でも、移民である朝青龍関とか若い人であるスノボーの国母選手とかに対する、テレビのコメンテーターの叩き方みてもそう思います。ディスるときは大声でディスりたいだけディスる、って感じです。あれは統合への努力とはいわないでしょう。端っこにいる人をよけい端っこに押しやっちゃう態度です。朝青龍関や国母選手の実績をリスペクトしつつ、そういう態度・考え方はちょっとどうなのよって、彼らが社会に入ってこれるように (社会の一員として社会に貢献することを) 動機づけられるような言い方がもっとあるでしょう。

日本に 1000 万人の移民に来てもらう云々を議論する前に、優先順位をちゃんとしましょう、っていうのが私の意見です。まず日本人の若い人を社会に統合・包摂する努力をすべきです。そして、次に、今いる移民の人たちのことを考えましょう。日本人の若い人 > 今いる移民の人っていう優先順位に違和感を覚える方がいらっしゃるかもしれませんが、大勢いる日本の若い人の力を借りなければ、移民の統合・包摂っていう国民的な努力を必要とする作業は成功しないですよ。

日本人の若い人を社会に統合・包摂する努力っていうのは、お店にいって若い店員さんがミスったときに理不尽に怒ったりしないとか、そういう日常的なこともいっぱいありますけど、一番大きいのは、若いとか年上だとか、社会的地位が高いとか低いとか、男性とか女性とかにかかわらず、意見の違う人が対等に意見を行って議論できる土壌を作るってことでしょうか。日本だと「屁理屈言うな」とか「礼儀がなってない」とかいうマジック・ワードがあって、それを年上の人が唱えると、そこで議論が終わっちゃうってところがまだありますから。そりゃー、移民の人は違う文化で育ってますから、意見の違い方は若い人どころの話じゃないです。そういう人に対して対等に議論できる場を提供できるかってことです。

今回のニコニコ動画のコメントを見ると、ほとんどの人がこの番組に対して文句を言ってます。ニコニコ動画のユーザーだからたぶん若い人でしょう。そのコメントを見て、ああ文句を言っているのは心の狭い人なんだなとは思わないでください。少子化の問題を考えるなら、日本の若い人たちに子供を産みやすい環境を提供することを真っ先に議論すべきなのに、それをすっ飛ばして移民 1000 万人なんて乱暴な議論をする。それは年金の財源を確保するっていう年金生活者の視点からのみの議論じゃないのか。そして言いにくいことには触れずに、いい人ぶっちゃう。ニコ動のコメントで文句言ってる人は、名村さんや鳥越さんのような社会の中心にいる人のそういう欺瞞的な態度に怒っているのだと私は思います。

コーナーが終わりそうになったところで、ラモスさんがこれだけは言わせてくれっていう感じで発言します。発言の内容は「私は国会議員にも外国人必要だと思いますよ」ってなことです。これは考えすぎかもしれないけど、「名村さんや鳥越さんみたいな社会の中心にいる人の考え方が変わんないとだめですよ」って言ってる風に私には聞こえた。ラモスさん、空気読んじゃってその場にいない国会議員のせいにしちゃったかなー、みたいな。ラモスさん、ほんと日本人だな。シャツのボタンはいつまでたっても上から 3 つぐらい開けてるけど。まあ、元京都・浦和のエンゲルス監督みたいに、日本人以上に申し訳なさそうな顔作るのが上手になるのも考えものだと思うが。

なんてことをですね、移民についてもっと考えよう、っていう非常に重要な問題提起をテレビ朝日の名村さんより頂きまして、私なりに考えてみたわけです。名村さん、いかがでしょうか。

(http://blogs.yahoo.co.jp/tarascoffeeshop/24676483.html へ続く)