X (旧ツイッター) で会話しているときに「あなた」よばわりされてブチぎれてる人がいて話題になっていました。「あなた」は敬意のある呼びかけの言葉のはずなのに、なぜこんなことになってしまうのか。「おまえ」や「きさま」がかつて敬意をこめた言葉であったのに、いつのまにか「あなた」もそうなってしまうのか。私たちはあの「敬意低減の法則」(敬語に含まれている敬意が使われるうちに少しずつすり減っていく現象) を現在進行形で目撃しているのか、というわけであります。Togetter にもまとめられています。
これに関して、私は小学生のときに授業中に先生の無駄話として聞いた話を思い出しました。私が小学校5年生の担任の先生から聞いた話ですから、昭和40年代の後半です。その先生が若い頃に香川県観音寺市の伊吹島というところに赴任したのですが、生徒が「おまえ」よばわりするので驚いていたら、その島では「おまえ」というのが素で目上の人に対する呼びかけの言葉だったという話です。その先生は当時40代前半だったと思いますから、若かった頃というのは昭和30年前後か昭和20年代後半くらいでしょうか。
この話を X に書いたところ 70 万を超えるビューをいただきました。そうすると、いろいろ情報を提供してくれる人もでてきます。伊吹島の「おまえ」の話を私も聞いたことがあるという人 (私の先生とは別の先生) や、文献を示してくれる人もいました。
その文献というのがこちら。


昭和50年ごろでもまだ「おまえ」が敬意のある呼びかけとして生きていたことがわかります。
伊吹島は香川県の他の地方になり平安時代のアクセントが残っていることでも有名で、言語学者の金田一春彦さんなんかも調査に訪れてるんですね。以下、Wikipedia の「伊吹島」のページから引用します。
伊吹島方言は平安末期の京都のアクセントを残す、全国的にも珍しいアクセントであるとされる[29]。1965年(昭和40年)から1966年(昭和41年)にかけて、神戸大学の学生だった妹尾修子が観音寺市立伊吹中学校の協力を得て調査し、指導教官だった和田実によって学会に報告された[31]。京阪式アクセントや讃岐式アクセントが、アクセント核がある拍までのピッチの変化が「高起式」「低起式」の2つの式として整理されるのに対し、伊吹島アクセント(伊吹島式アクセント)は「平進式」「下降式」「上昇式」の3つの式の区別として整理されるという特徴がある[32]。
伊吹島は美味しいいりこの産地として有名です。讃岐うどん店の多くは出汁に伊吹のいりこを使っているそうです。
これ、「あなた」の持つ・特に人間関係のない間柄で一定の距離感と敬意を表す二人称・集団内(家庭や職場等)で同格や目下を(丁寧に接していることをPRしつつ)呼ぶのに使う二人称という二面性が根本にあって、後者の用法から「『あなた』はウエメセ」という感覚持ってる人が出てるんだろうな。