17日の月曜日、ゲイエティー劇場で演劇『The Ferryman』を観てきました。イギリスの劇作家ジェズ・バターワースの作品で、初演は2017年にロンドンにて。このときは映画監督のサム・メンデスが演出を務めました。『アメリカン・ビューディ』でアカデミー賞を受賞した人です。劇は好評で、ウェスト・エンドでは約1年のロング・ラン。ローレンス・オリヴィエ賞の最優秀新作演劇作品賞を受賞しました。その後、ブロードウェイでも9か月間の連続公演を果たしました。
1981年の北アイルランドのアーマー県南部が舞台。農家のカーニー家は大家族で、クィンとメアリーの夫婦と7人の子供たち、クィンの叔父、叔母2人、クィンの義妹 (弟の妻) ケイトリンとその息子オシンが1つの屋根の下で暮らしている。離れには農作業を手伝うイギリス人の中年男も暮らしている。クィンの弟は10年前にいなくなった (Disappeared)。北アイルランドではこの Disappear という言葉には特別な意味があって、なんらかの理由でIRAにされわれ、殺され、どこかに埋められたことを指す。クィンは以前は IRA のメンバーで、弟が Disappear したのは彼が IRA をやめたことが原因なのではないかと疑っている。弟の遺体がラウズ県の泥炭地で見つかり、それに関してデリーからIRAの幹部がクィンと話をするために訪ねてくる。。。
ジェズ・バターワースはイングランド人なのだが奥さんがローラ・ドネリーという北アイルランド出身の女優さん。ドネリーさんはロンドンの公演ではケイトリンを演じています。彼女の叔父さんは1981年にIRAに殺され、その遺体は1984年にボーダーの南の泥炭地で偶然発見されています。そういう意味では少なくともドネリーさんにとってはこの劇で語られるストーリーは他人事ではないわけで、バターワースも表では語られない北アイルランドの実情を踏まえて劇を書くことができたのだと思います。
上演時間は約3時間。登場人物は23人。本物の (という言い方はおかしいかもしれませんが、生きた) 赤ちゃん、ウサギ、ガチョウも舞台に登場します。ロンドンやニューヨークでは好評を博し、私も見ごたえある劇だと思ったのですが、こうした(北)アイルランドの難しいテーマを扱った劇が現地のアイルランド人にどう受け止められるかはまた別問題。実際のところ、ダブリン公演の客の入りはあんまりよくなくて、私が行った回も客席は半分くらいしか埋まっていませんでした。
ロンドン公演のときに英国ガーディアン紙に掲載されたこちらのレビューは北アイルランド出身のジャーナリストによって書かれたものなのですが、この方はあまりこの劇がお気に召さなかったよう。バンシー (アイルランドの泣き女的妖精) に安易に言及されたりとか、登場人物がやたらウィスキーをあおっていたりとか、アイルランドのステレオタイプにうんざりするところがあったようです。このジャーナリストはまさにアーマー県の出身だけに、どれほど丁寧に作りこまれていても、現実はそんなもんじゃなかったという思いがあるのかもしれません。
ダブリンでの公演は3月15日まで。
