たらのコーヒー屋さん - 2 店舗目

たらのコーヒー屋さんです。

映画『英国王のスピーチ (The King’s Speech)』

1/8 at Lighthousecinema
監督: Tom Hooper
出演: Colin Firth, Geoffrey Rush, Helena Bonham Carter

 

イメージ 1

 

3年ぐらい前にエリザベス女王 (今の女王じゃなくて処女王の方)の映画を見たことがあった。ケイト・ブランシェットが女王役を演じた「エリザベス: ゴールデン・エイジ」っていう映画だったんだけど、これがちょっとひどい映画で、こんな身も蓋もない国威発揚映画を恥ずかしげもなく公開できるなーと思ったのでした。ラストシーンでは、ブランシェットの顔が画面いっぱいにアップになって、私はブランシェット結構好きですからそれはいいんですけど、いきなりカメラ目線になって、聖母のような頬笑みを浮かべ、イギリス国民に語りかけるようにセリフを言うんです。ちょっと気持ち悪かったので具体的に何を言ったのかは忘れました。

 

今日、観に行った『英国王のスピーチ』はジョージVI (在位 1936 - 49) が主人公だったんで、この映画もそんなんだったら嫌だなーと思ってたんですが、それはまったくの取り越し苦労で、ほんとうにおもしろい映画だったのです。

 

ジョージVI は言葉が遅く、左利きやO脚の矯正をされたこともあってか吃音で、引っ込み思案な性格でした。王位は兄のエドワードが継ぐものと気楽に構えていたのですが、その兄が離婚歴のある女性と結婚することになり1年もたたずに退位。ジョージVIが意思に反して戴冠せざるを得ない事態になります。

 

映画はジョージVIとそのスピーチ・セラピストであるライオネル・ローグ (演じるのはジェフリー・ラッシュ) との交流を中心に描かれます。ジョージVIは最初は傲慢で猜疑心が強く世間知らずで癇癪持ちの男として描かれるのですが、妻の助けも得て徐々にローグに対して心を開き、苦労しながらもスピーチをこなしていくようになります。

 

ジョージVIを演じるのはコリン・ファース。ちょっと前まではコマンティック・コメディーのやられ役みたいなイメージしかなかったのですが、去年の「シングル・マン」といい役にも恵まれて重厚な役者さんになりました。

 

この映画を見てすごいと思ったのは、国王の弱い部分がタブーとならずにちゃんと描かれている点です。さきほど挙げたジョージVIの性格的な欠点はもとより、「おれは国王になる器じゃないんだよ」と泣きじゃくるところとか、その父親のジョージV (マイケル・ガンボン) がちょっとボケてしまったところとか。しかし、それによって、国王を等身大の人間として感じることができ、感情移入しやすくなるわけですね。だから、この映画は英国民の共同体帰属意識を高めることができるし、国外のオーディエンスに対しては英国のよい宣伝になったのではないでしょうか。

 

「タブーにならずに」と書きましたけど、自分の弱さを克服して戦時という難しい時代に国民を導いたジョージVIの話は映画の題材としてもってこいだと思うのにこれまで映画化されなかったのは、国王の弱い部分に触れることがタブーであるという意識がかつてはあったのだろうなとも思います。

 

振り返って日本のことを考えてみると、皇室に関しては腫れものを触るような扱いしかできません。皇族の発言や行動についても、官僚である宮内庁が100%コントロールしているように感じられます。もう少し敷居を低くし、人間らしい自由な発言をしてもらった方が、国民との距離が縮まり、共同体のシンボルとしての役割をより良く果たしていただけるのではないでしょうか。そのへんをもうちょっとなんとかしないと、悠仁親王が大きくなったときに、今度はほんとにお嫁さんに来てくれる人がいなくなるんじゃないかと心配になります。




2011/07/14 追記:
この間の日曜日に、カフェでたまたま隣に座ったアイルランド人の男の人と話をしました。その男の人はミックさんっていう名前なんだけど、日本映画の話になって、それから「英国王のスピーチ」の話になりました。ミックさんはアイルランド人だから英国王って聞いただけでウゲーってなってたんだけど、信頼する友人がおもしろいって言ったので DVD 借りて観てみたら、ほんとにおもしろかったそうです。

 

ジェフェリー・ラッシュ演じるスピーチ・セラピストがオーストラリア人ですけど、英国人は一般的にオーストラリア人を見下していて、っていうか英国人はほかの人みんなを見下してるんですけど (ミックさん談)、そのオーストラリア人が先生になって英国王が生徒になるっていうのが映画の肝のひとつになってる、とミックさんに言われて、あー、それには気付かなかったと思った。王様と臣下っていう上下関係から対等の立場に、みたいなメッセージが含まれてると。

 

それから、ミックさんはイギリスの国旗のことを俺たちは肉屋のエプロン (Butcher’s Apron) っていうんだよって笑ってたんだけど、この表現も初めて聞いた。ネットでちょっと調べてみたら、英語版Wikipedia の Union Flag の項に、ちゃんと別名のひとつとして言及されてた。絶対アイルランド人だな、こんなの書きこんだのw  こっちの肉屋さんはだいたい赤白のピン・ストライプのエプロンしてます。

 

それから、これはミックさんとは関係ないんだけど、監督がラジオかなんかのインタビューに応えてたのをきいたのですが、英語タイトルの King’s Speech っていうのは、アメリカだとマーティン・ルーサー・キングの有名なスピーチ (I have a dream のやつ) がまず思い浮かべられるらしい。狙ってこのタイトルにしたのかどうかは言わなかったんだけど、ハイジャックしたみたいでごめんね、とは言ってた。