Netflix で韓国発のドラマ・シリーズ『イカゲーム』(Squid Game) が大人気だそうです。主人公が命を賭けたゲームに参加させられるという、いわゆるデス・ゲームもの。今日のアイリッシュ・インデペンデント紙に『イカゲーム』のレビュー、ならびにデス・ゲームというジャンルに関する考察が掲載されていました。書いたのは、アナベル・ヌージェント記者。
『イカゲーム』は 9 月 17 日に第一回が放送されたばかり。その 4 日後にはNetflix トップ 10 の第一位に躍り出ました。視聴者の 95% が韓国外の人。あまりにも人気が高いので、株式市場で韓国のメディア株全般が買われたそうです。TikTok では『イカゲーム』の登場人物に似せたメイクをするためのチュートリアル動画もアップされているそうです。ファンが作成したこのドラマに関連する動画の再生数は合計で110万回を超えています。Netflix の CEO であるテッド・サランドス氏によれば、このドラマ・シリーズは同社の最大のヒット作品になる可能性があるとのこと。
『イカゲーム』は Netflix の世界チャート入りした初の韓国作品だとか。また、デス・ゲームのジャンルの人気が今でも高いこともわかります。
デス・ゲームと言えば、やはり日本産の『バトル・ロワイヤル』が頭に浮かびます。また、米国作家のスーザン・コリンズが書き、映画化もされた『ハンガー・ゲーム』、スティーブン・キングの『バトルランナー』、1932年の『最も危険な遊戯』、漫画の『LIAR GAME』なども思い出されます。『イカゲーム』もこれらの作品と同様にむごたらしいセンセーショナリズムが特徴です。
ヌージェント記者の意見によれば、最近の傾向として、英語圏で製作されるデス・ゲームものはぱっとしないものが多いのだが、日本と韓国で製作されたものには目を見張るものが多いとのこと。
『イカゲーム』は、このジャンルには珍しく時代設定が現代です。主人公のソン・ギフンはギャンブル中毒でそこらじゅうから借金をしている 50 代間近の男。失望した娘と病気の母親がおり、借金取りに追い回されます。借金のカタに臓器を売り渡す契約もしています。最初が腎臓でその次が目だそうです。
ある日、ソンは地下鉄のプラットフォームで見知らぬハンサムな男から賞金約4000億円のゲームに誘われます。困窮していた彼はいやいやながらも同意しますが、次に目が覚めたとき、そこは子供の遊び場を巨大化したような施設でした。イースター・エッグを壁に投げつけたようなパステル・カラーに覆われた部屋。ソンは他の参加者と同じトラック・スーツを着せられています。ダフトパンクのようなマスクとつなぎを身に付けた監視員がパトロールし、ルールを説明します。ルールは簡単。6つのゲームを勝ち抜けば大金が手に入ります。最初のゲームは「だるまさんがころんだ」。ゲームの終了後、過半数の参加者は死体となっていました。血の海が映し出される中、フランク・シナトラの『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』が流れます。
筆者によれば、ツイッターでは 20 のツイートに1つくらいの割合で、『イカゲーム』があるドラマに似ていることが指摘されているそうです。それは、日本製の『今際の国のアリス』(英題: Alice in Wonderland)。これも昨年 Netflix で放映されたものですが、残念ながらさほど話題にはなりませんでした。
『イカ』と『アリス』には異なる点ももちろんありますが (たとえば後者は SFの要素が強い)、『アリス』には『イカ』の到来を予見させる要素がいくつもあり、『イカ』を超える部分もあるそうです。
『アリス』の主人公は有栖良平 (演: 山崎賢人)。ある日、友人2人と共に地下鉄の駅を出ると東京の町はからっぽになっていました。夜になり、巨大な光の柱に導かれてゲームセンターに行くと、そこで生と死を賭けたゲームに参加させられることになります。
成功すれば期限つきのビザを貰えます。ビザの期限が来れば、次のゲームに参加しなければなりません。失敗はすなわち死を意味します。
舞台設定は異なれど、『イカ』と『アリス』に共通するのは、人間模様、背信、裏切り、そして犠牲です。どちらのドラマも、登場人物の造形に時間をかけています。ソンを演じるイ・ジョンジェは、サイレント映画の俳優のような身体性で役を演じます。しかし、ドラマのいちかばちかの緊張感を高めるのは彼だけではありません。脇役陣のがんばりも見逃せません。どちらのドラマでも、登場人物は欠点をかかえ、だからこそ視聴者がより感情移入できるように描かれます。アクションやメロドラマ的要素の扱いについても、両製作陣は手練れであることがわかるそうです。
一方で、同じデス・ゲームものでも、アメリカ製作の『Panic』は期待外れだったとヌージェント記者は書いています。これは今年5月から Amazon Prime Videoで放映されたもの。
主人公のヘザーは大学の学費のために高額の賞金を懸けたゲームに参加するというプロットです。アメリカの学費が高いのはわかりますが、あまり説得力は感じられません。登場人物の造形がなってないみたいなんですね。たとえば、ヘザーとナタリアは BBF (永遠のベスト・フレンド) だという設定なんですが、本人たちが口でそういうだけで、シリーズを通して見ても、彼女たちがベスト・フレンドであることを示すエピソードはまったくでてきません。登場人物に感情移入できないのであれば、誰が死のうと気になるわけないじゃないか、というわけです。
同じことがの『サークル』(2015年) や『エスケープ・ルーム』シリーズ (2019年、2021年) にも言えます。
『イカ』や『アリス』の成功の少なくとも一部は、同ジャンルの先人たちの作品 (ドラマ、映画、漫画、小説) に負うものだろう、とヌージェント記者は論じます。
もちろん、その筆頭は『バトル・ロワイヤル』(2000年)。高見広春の小説を原作として深作欣二監督が撮ったこの映画は、ご存じのように海外でもカルト的な人気を博しました。『ハンガー・ゲーム』はこれを剽窃したのではないかと疑いをかけられましたが、原作のスザンヌ・コリンズはそれを否定しています。
デス・ゲームのジャンルの魅力は明白であるとヌージェント記者は説きます。それは、わかりやすい暴力に対する観客のサディスティックな嗜好性です。ただし、『イカゲーム』や『今際の国のアリス』などのドラマを『Panic』などと比べてみれば、同じジャンルといってもすべてが優れた作品になるとは限らないようです。