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グランドナショナルを女性として始めて制したブラックモア騎手がインタビューで使ったアイルランド英語

 

 

先週の土曜日、グランド・ナショナルというイギリスで最も人気の高い競馬の障害レースが行われました。このレースで、アイルランド産のミネラ・タイムズ号に騎乗したアイルランド騎手のレイチェル・ブラックモアさんが優勝しました。女性騎手がグランド・ナショナルを勝ったのは史上初です。

 

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 さて、勝利後のインタビューにおいて、ブラックモア騎手はこんな風に話しました。「I just can’t believe I’m after winning the Grand National」。この After の使い方、これはアイルランド英語といえば真っ先に出てくる言い回しですね。現在完了形を be after で表すというやつです。

 

ブラックモア騎手は、「グランド・ナショナルを勝ったなんて信じられない」と言っているわけです。標準的な英語で言えば「I’ve won the Grand National」です。

 

これは、アイルランド語の文法には現在完了がなかったので、英語で話すときにもその影響が残っているということです。

 

www.irishtimes.com

 

この記事を書いたコラムニストのフランク・マクナリーさんによれば、イギリスの新聞の少なくとも 1 つが、アイルランド英語だということがわからず、何か単語が省略されたのだと思い、“I’m [talking] after winning the Grand National” と talking を補って記事にしたそうです。オブザーバー紙らしいですけど。

 

ただ、be after ~ と to have ~ がまったく同じニュアンスかというとそうでもなくて、そこはかとない違いがあるそうなんですね。アイルランド国外の作家による小説で、ある登場人物がアイルランド人であることを印象付けるために、セリフの中で after を言わせたりすることがよくあるそうですが、どうも不自然に感じることも多いそうです。

 

Be after の使い方にはあるルールがあるようなんですが、マクナリーさんもそのルールをはっきりと解説できる人はいないと言っています。

 

言語学者によっては、この after の使い方を、「after perfect」時制と言ったり、「hot news perfect」と言ったりするようです。非常に近い過去に起きた出来事を言うときに使うというのが一般的なルールのようですが、例外もたくさんあると。

 

ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』の一場面、バーニー・キアランズ・パブでアルフ・バーゲンが「誰かがパット・ディグニーと一緒にいたのをケーペル・ストリートで見た」と漏らすと、周りの人が驚きます。

 

「あいつが死んだのを知らないのか」とジョー。

「パディ・ディグナムが死んだ?」とアルフ。

「そう」とジョー。

「あいつを見てから 5 分も経ってないぞ (Sure I’m after seeing him not five minutes ago)」とアルフ。

 

これが、Hot News であることは間違いありません。特にディグナムが死んでいなかった場合には。しかし、ジョーはこうアルフに告げます。「やつは今朝、埋葬されたよ」。

 

Be after が出来事の後、いつまで使えるかというのは、出来事の種類によって異なります。人の死の場合は、一概には言えませんが、だいたい通夜が済むまで。グランド・ナショナルに勝つなどの大きな出来事の場合は、3~4日は大丈夫。それでも1週間が過ぎると賞味期限切れになるのではないか。

 

JMシングの戯曲『谷間の影』にはこんなシーンがあるそうです。名もない風来坊が若いノーラ・バークの小屋を訪ねてきます。かなり年の離れた彼女の夫がベッドに横たえられています。

 

「死んだのか?」と風来坊。

ノーラ。「そうよ。He’s after dying on me...」

 

ここでも be after の構文が使われていますが、もう 1 つ興味深い言い回しがあります。「on me」の使い方。これはもちろん、夫が物理的に彼女の腹の上で死んだわけではありません。死んだことによって、彼女に深刻な現実的困難を残した、という意味です。

 

これは、文法的には「dative of disadvantage」と呼ばれるそうです。Dative は「与格」と言われる文法用語で、動作の受け手を表します。たとえば、He gave it to me の「to me」です。これが、ノーラのセリフでは「on me」で、不利益を被るという意味で使われています。これは、ラテン語ギリシャ語にはあるようですが、標準英語にはない用法らしいです。

 

 

 

 

 

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