たらのコーヒー屋さん - 2 店舗目

たらのコーヒー屋さんです。

サッチャーとアイルランド

イメージ 1

 

労働党政権下でピーター・マンデルソンが北アイルランド担当相に就任したとき、既に政界を引退していたサッチャーに詰め寄られて、こう忠告されたそうだ。「何があってもアイルランド人を信用するな (Never to trust the Irish)」。これは、サッチャーの死後にマンデルソン本人が語ったことです。

 

今週、サッチャーの回想録みたいな本が発行されるらしい。この本ではフォークランド紛争の時期の話が中心になっていて、彼女が死ぬまで公にしないという約束のものだったそうだ。

 

これに合わせてサッチャーとアイルランドの関係についての記事が今日のアイリッシュ・タイムズに載っていたのですが、冒頭の逸話はこの記事からの引用です。多くの人がやっぱりサッチャーはそう思ってたか、と感じたわけですが、記事には続いて、彼女の公認伝記作家で、前述の本の作者であるチャールズ・ムーアさんが登場して、必死にこの言葉のダメージを和らげようとしています。

 

「ある意味では、私はこの話を真剣に受け止めていない。真実ではないとは言わないが、私が意味するところは、現役時代のサッチャーと引退してからのサッチャーはまったく区別して考えなければいけないということだ」

 

「現役時代のサッチャーこそが本物であり、年を取ってからの彼女は抑制が利かず、いろんなものを攻撃する傾向があった」。ムーアによれば、サッチャーは彼女と同世代のイギリス人によくあるように、「アイルランド人の典型め」ぐらいの軽度の反アイルランド的な言葉をプライベートで発する傾向があったそうです。

 

「これは何も意味しないわけではないが、非常に敵対的というわけでもない」。最終的には認知症につながるサッチャーの精神的な衰えは、先のマンデルソンとの会話があった 1999 年には始まっていたそうです。

 

「ほとんどの政治家はプライベートでこれに類したことを言う。『あのフランス人野郎、やつらはまったく悪夢だぜ』みたいなこと。世界中の人はイギリス人について同じことを言っているだろう。だから、まったく意味がないとは言わないが、過剰な意味を与えるべきでもない」

 

「彼女はアイルランド人を憎んでいなかった。彼女が憎んでいたのはテロリストだ」

 

サッチャー政権時、アイルランドではチャールズ・ホーヒー (フィアナフォイル党) とギャレット・フィッツジェラルド (フィネゲール党) の 2 人が、総選挙の度に交代しながら首相を務めていたのですが、サッチャーはフィッツジェラルドの方を信用していたようです。

 

イメージ 2

 

ムーア:「彼女はホーヒーを信用していなかった。それは彼女だけではなかったはずだ。彼女はフィッツジェラルドには敬意を払っていたし、好んでさえいた。アイルランドは嘘つきで盗人だらけ (a whole load of lying, deceiving Paddies)とは彼女は考えていなかった。どちらかというとそういう態度を取っていたのは夫のデニスの方だ」

 

アイルランドの多くの人にとって、彼女は IRA のハンガーストライキをほったらかしにした人である。刑務所の中で餓死者を出したことと、穏健なナショナリズムすら社会から除けものにしたことで彼女は非難されている (後者は意図的ではなかったにせよ)。と、記事には書かれています

 

ムーア:「彼女はいろんな意味で帝国主義者だった。彼女は深いレベルで、英国はインドを手放すべきではなかったと考えていた。けれども、アイルランドに対してはそうではなかった。彼女はアイルランド共和国の存在は理にかなったことだと考えていた。しかし、北アイルランドはイギリスであると強く思っていた。フォークランド諸島と同様に、住民がそれを望んでいたからだ」

 

フォークランド紛争については、ホーヒーは敵対行為の即時終結と EEC の経済制裁の停止を要求しました。アイルランド国内にはアルゼンチンに対する同情というか共感と、ハンガーストライカーの処遇に関する不満が渦巻いていましたので、これが当時の外交戦略に影響を与えたのです。
しかし、ホーヒーの秘書を務めたショーン・アインワードさん曰く、「振り返って考えれば、これは間違いだった。英国ではまったく理解されなかったし、多くの友人を失ってしまったからだ」。

 

ムーア:「ホーヒーの決断は国内的には納得のいくものだったかもしれないが、サッチャーにとってはフォークランド諸島の問題がすべてだったので、この件で彼女がホーヒーを許すことはなかった。彼女にとっては、友好国であるはずの国がこのような態度を取るのは最低の行為だった」

 

「EEC (現 EU) はイギリスを強く支持していました。ホーヒーは反対の方向に引っ張ろうとしたのですが、これはアイルランドのためにはなりませんでした」。

 

自国の民が他の国に忠誠を誓っていることを受け入れるのは、サッチャーにとっては非常に困難なことだったようです。引退後のプライベートな会話の中で、北のナショナリストのことを「売国奴 (Traitor)」と呼んだこともあったそうです。すぐに、これは適切な言葉ではない、と取り消したそうですが。

 

冒頭の写真はサッチャーとホーヒー。記事中の写真はサッチャーとフィッツジェラルド

 

‘She did not hate the Irish, she hated the terrorists,’ says Thatcher’s official biographer
http://www.irishtimes.com/news/she-did-not-hate-the-irish-she-hated-the-terrorists-says-thatcher-s-official-biographer-1.1371713
Haughey’s stand over Falklands damaged Anglo-Irish relations, says former official
http://www.irishtimes.com/news/haughey-s-stand-over-falklands-damaged-anglo-irish-relations-says-former-official-1.1371780