そのおにいちゃんと初めて会ったのは、彼が間違えてうちの事務所に入ってきたんですよ。電子レンジでお昼ごはんを温めてたらしくて、ボウルを抱えたまま。私が「ハーイ」と声をかけると、「あ、ごめん」と悪びれずもせず隣の部屋に帰って行った。
それが、2 か月ぐらい前。おにいちゃんはメガネをかけていて、ハカセくんがそのまま大きくなったような風貌。いつも、ストップ・メイキング・ザ・センスのデビッド・バーンのようなブカブカのベージュの背広を着ています。
うちの事務所の隣のスペースはずっと空いていて、大広間の控室みたいになっていたんですが、大広間を FAS に貸し出すことになったので、そこも改造して事務所になったんです。そこをおにいちゃんが同年代の仕事上のパートナーと一緒に借りた。
2 人はたぶん弁護士。彼らの部屋は給湯室の前にあるので、いちおうブラインドがかかっているとはいえ、毎日のように中が覗けてしまうんですね。それで、最初はよかったんですけど、どんどん書類が床の上に散らかっていくんです。
最初は忙しくて片づける暇がないのかなーぐらいに思ってたんですが、乱雑さは日に日に増していくばかり。いまはもう足の踏み場もないくらいになっています。これ以上散らかりようがないと思ったら、次の日はさらに散らかっているみたいな。世界記録を小刻みに延々と更新していったブブカのようです。もうブブカしらない人は置いていきますよ。
きょうはセーターを着て歩いているのを初めてみたんですが、K ちゃんが「あの人、スーツの上にセーター来てるよ」と。後ろ姿をみたら、例のベージュのスーツの裾がセーターの下から覗いています。
K ちゃんいわく、「あの人は名探偵タイプにちがいない」。しかし、傍にいるワトソン君まで一緒になってあんなに散らかしていたら仕事にならんだろう、と思います。